公開日:2017-03-17
2016年、中国浙江大学医学部、鄭州大学公衆衛生学部の研究者らが、“食事性マグネシウム摂取量と心血管疾患、2型糖尿病、全死亡リスク: 前向きコホート研究の用量反応メタ解析”について報告をしたので、その論文概要を紹介します。
背景
これまでの研究では食事性マグネシウム摂取量と健康成果との関連性を検討していますが、その結果は確定的ではありません。そこで、マグネシウム摂取量と心血管疾患(CVD)、2型糖尿病(T2D)、全死亡リスクとの相関を調べるため、前向きコホート研究の用量反応メタ解析を実施しました。
方法
PubMed、EMBASE、Web of Scienceから2016年5月31日までに公開され対象となる結果のリスク推定値を含む論文を検索しました。プールされた結果は、ランダム効果モデルを用いて解析しました。
結果
参加者100万人以上を対象とした前向きコホート研究40件が分析に含まれました。 追跡期間中(4~30年)、心血管疾患(CVD) 7,678例、冠状動脈性心疾患(CHD)6,845例、心不全701例、脳卒中14,755例、2型糖尿病(T2D) 26,299例、および死亡10,983例の報告がありました。
マグネシウム摂取量(100 mg/日増量)と総心血管疾患(CVD)(相対リスクRR:0.99; 95%CI、0.88-1.10)、冠状動脈性心疾患(CHD)(相対リスクRR:0.92; 95%CI、0.85- 1.01)の相対リスクに有意な関連性は認められませんでした。
しかし、マグネシウム摂取量の増加と同様に心不全リスク(相対リスクRR 0.78(リスクが22%低下するという意味で以下同様です),95%CI 0.69-0.89)が22%、脳卒中リスク(相対リスクRR 0.93、 95%CI、0.89-0.97)が7%の有意な低下と関連していました。
さらに、マグネシウム摂取量100 mg/日増分につき2型糖尿病(T2D)、死亡率の相対リスクは、それぞれ0.81(95%CI、0.77-0.86)、0.90(95%CI、0.81-0.99)でした。
結論
食事性マグネシウム摂取量の増加は、脳卒中、心不全、糖尿病、全死亡リスク低下と関連しますが、冠状動脈性心疾患(CHD)または総心血管疾患(CVD)のリスクと関連していません。 これらの調査結果は、食事性マグネシウム摂取量の増加が健康上の利益をもたらすかもしれないという考えを支持します。
参考資料:
Fang X, Wang K, Han D, He X, Wei J, Zhao L, Imam MU, Ping Z, Li Y, Xu Y, Min J, Wang F.
Dietary magnesium intake and the risk of cardiovascular disease, type 2 diabetes, and all-cause mortality: a dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. BMC Medicine 14:210, 2016
https://bmcmedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12916-016-0742-z
DOI: 10.1186/s12916-016-0742-z
【コメント】
この研究は、食事性マグネシウム摂取量と心血管疾患(CVD)、冠状動脈性心疾患(CHD)、心不全、脳卒中、2型糖尿病(T2D)および死亡リスクとの関連を調査するため1999年~2016年5月31日までに報告された前向き研究40論文(70調査)を解析し、マグネシウム摂取量は脳卒中、心不全、糖尿病、全死亡リスク低下と関連しているというエビデンスを示したことに意義があります。
当ホームページでは、マグネシウムと心血管疾患、冠状動脈性心疾患、脳卒中、心不全、糖尿病、死亡率などとの密接な関係についても解説して来ました。
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