公開日:2013-12-12
マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究
2013年12月、九州大学医学部、徳島大学医学部、中村学園大学の共同研究者らの“マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究”に関する報告が糖尿病の専門誌Diabetic Medicineに出版されたのでお知らせします。
この論文は、2013年6月に同誌のウエッブサイト オンラインで公開されたのが、今回Diabetic Medicine誌に出版されたものです。
当ホームページでは以前、以下のサイトでご紹介しましたので閲覧下さい。
2013.10.24 マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究
この論文の概要を再度ご紹介致します。
目的
これまでの研究では、マグネシウム摂取が2型糖尿病のリスクを低下させることが示されましたが、結果は一貫していません。そこで一般的な日本人人口でマグネシウム摂取量と2型糖尿病の発症率の関係を前向きに調査しました。
方法
対象は75gの経口ブドウ糖負荷試験を受けた40-79歳の糖尿病のない1999人の地域住民で、1988年から平均15.6年間前向きに追跡調査を行いました。
結果
追跡期間中に417人(男性204、女性213人)が2型糖尿病を発症しました。
年齢と性別調整後の2型糖尿病発症率はマグネシウム摂取量の四分位値増量と共に有意に低下しました(Q1≦148.5mg/日、Q2:148.6~171.5mg/日、Q3:171.6~195.5mg/日、Q4≧195.6mg/日、 P = 0.01)。包括的なリスク因子と他の食事要因調整後の多変量解析では、Q1の2型糖尿病発症率のハザード比を1として比較した場合、分位が高くなるにつれてハザード比は減少し、第3四分位値で0.67(95% CI 0.49-0.92; P = 0.01)、最も高い第四分位値で0.63(95% CI 0.44-0.90; P = 0.01)でした。(注釈: マグネシウム摂取量が最も高い群では2型糖尿病の発症リスクが37%低下すると言う意味です。)さらに、2型糖尿病のリスクは、多変量調整モデルで対数変換したマグネシウム摂取量1SD上昇ごとで14%低かった(P=0.04)。
層別化解析に於ける2型糖尿病のリスクは、マグネシウム摂取量とインスリン抵抗性(HOMA-IR)レベル、高感度C反応性蛋白(hs-CRP)レベル、アルコール摂取量の間に統計的に有意な相互作用が認められました(P < 0.05)。
この研究集団の特徴を表1に示します。
表 1. 研究集団の特徴(1988年時)および2型糖尿病発症率のハザード比(一部抜粋)
数値は平均(標準偏差)、幾何平均(95% CI)またはパーセンテージで示します。
幾何平均値(95% CI)はHOMA-IR、hs-CRPで示し、そして炭水化物、粗繊維、脂肪酸、多価不飽和脂肪酸とビタミンCの摂取量で示します。
年齢は性別調整、男性頻度は年齢調整しました。
高血圧: 血圧 ≥ 140/90 mmHg か降圧剤使用。
*各食事性変数は回帰残留法を用いたエネルギーを調整しました。
多変量調整: 年齢、性別、糖尿病家族歴、体格指数、HDLコレステロール、トリグリセリド、高血圧、喫煙習慣、アルコール摂取量と定期的運動および総エネルギー、炭水化物、粗繊維、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、ビタミンCの摂取量。
HOMA-IR: インスリン抵抗性指数、hs-CRP: 高感度C反応性蛋白、Mg: マグネシウム。
* 表をクリックすると拡大表示します。
結論
マグネシウム摂取量の増加は、一般的な日本人人口で特にインスリン抵抗性、軽度の炎症、飲酒習慣を有する人で2型糖尿病の発症率に有意な防御因子であることを示唆します。
参考資料:
Hata A, Doi Y, Ninomiya T, Mukai N, Hirakawa Y, Hata J, Ozawa M, Uchida K, Shirota T, Kitazono T, Kiyohara Y. Magnesium intake decreases Type 2 diabetes risk through the improvement of insulin resistance and inflammation: the Hisayama Study. Diabetic Medicine 30:1487–1494, 2013
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/dme.12250/full
【コメント】
秦明子先生らは、日本人に於ける久山町研究で16年間の前向き調査にて2型糖尿病の発症についてインスリン抵抗性とマグネシウム摂取の相互作用を初めて評価したことに大変意義があると言えます。
久山町研究とは、九州大学大学院医学研究院環境医学分野が1961年来、福岡県久山町(人口約8,400人)で進められている地域住民を集団ベースとした心血管系疾患とその危険因子の前向き疫学研究として世界的に良く知られています。
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なお、糖尿病やメタボリックシンドロームなどとマグネシウム摂取不足との関係は、横田邦信著の“マグネシウム健康読本”(現代書林)にも詳しく書かれていますのでご参考にして下さい。
また、予定より遅くなりましたが来年2月頃には新しい本が上梓予定ですのでご期待ください。
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。