公開日:2022-11-28
2021年、アメリカ・ヴァンダービルト大学医学部、ハワイのマグネシウム教育研究センター、Cleveland Clinic、Veterans Health Administration–Tennessee Valley Healthcare System Geriatric Research Education Clinical Centerの研究者らは、“マグネシウム欠乏スコア(MDS)は米国成人の全身性炎症および心血管死亡リスクを予測”に関する報告をしたので、その論文の概要を以下に紹介します。
背景
マグネシウム (Mg) の腎臓での再吸収は、恒常性に不可欠です。
目的
マグネシウム不足の状態と疾患の転帰を予測するために、腎再吸収関連マグネシウム欠乏スコア(magnesium depletion score, MDS)のモデルを開発して検証しました。
方法
マグネシウム欠乏スコア(MDS)は、マグネシウム耐性試験を用いた結腸直腸がんの個別予防臨床試験(登録clinicaltrials.gov as NCT01105169)で、マグネシウム不足のリスクが高い 77 人の成人(年齢 62 ± 8 歳、男性51%)の体内マグネシウム状態の予測において検証しました。
次に、国民健康栄養調査[National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES)]で10,000 人を超える米国成人(48 ± 0.3歳、男性 47%)のリスク層別化と炎症および死亡率との関連についてマグネシウム欠乏スコア(MDS)を検証しました。
比例ハザード回帰モデルを使用し、マグネシウム摂取量とマグネシウム欠乏スコア(MDS)との関連、全死亡および心血管疾患死亡リスクを調査しました。
結果
結腸直腸がんの個別予防臨床試験におけるマグネシウム不足は、血清マグネシウムのみのモデル 0.53 (95% CI: 0.40, 0.67)と比較し、マグネシウム欠乏スコア(MDS)を組み入れた性別と年齢のモデルは0.63 (95% CI: 0.50, 0.76)でした。
国民健康栄養調査(NHANES)では、主にマグネシウム摂取量が推定平均必要量未満(P < 0.05)の個人の間で年齢、性別などを調整後、平均血清C反応性タンパク質がマグネシウム欠乏スコア(MDS)の増加とともに有意に増加しました(P < 0.01)。
さらに、マグネシウム欠乏スコア(MDS)によって予測されるマグネシウム欠乏症の患者においてのみ、低いマグネシウム摂取量が全死亡および心血管疾患死亡リスクの増加と長期的に関連していることがわかりました。
マグネシウム欠乏スコア(MDS)は、マグネシウム摂取量が推定平均必要量未満の患者でのみ、用量反応的に全死亡および心血管疾患死亡リスクの増加と関連していました。
結論
マグネシウム欠乏スコア(MDS)は、全身性炎症および心血管疾患死亡リスクを軽減するためにマグネシウムの摂取量を増やすことで有益な可能性のあるマグネシウム欠乏症の個人を特定する上で有望な手段として役立ちます。
参考資料:
Fan L, Zhu X, Rosanoff A, Costello RB, Yu C, Ness R, Seidner DL, Murff HJ, Roumie CL, Shrubsole MJ, Dai Q. Magnesium Depletion Score (MDS) Predicts Risk of Systemic Inflammation and Cardiovascular Mortality among US Adults. J of Nutrition 151:2226-2235, 2021
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8349125/
【コメント】
この研究者らは、マグネシウム摂取不足の状態と疾患の転帰を予測するマグネシウム欠乏スコア(MDS)のモデルを開発し、全身性炎症および心血管疾患死亡リスクの検証、今後の臨床試験などでの確認が必要と報告したことに意義があります。参考文献の11に当MAG21研究会メンバーの横田らの文献が引用されています。
当MAG21研究会のサイト「2019(令和元)年国民のマグネシウム摂取量 公開日:2021-03-12」で解説していますが、厚生労働省が5年毎に公表しているマグネシウムの食事摂取基準(mg/日)、毎年調査報告している推定摂取量の比較表によると、1日当り推奨量は30~49歳の男性370 mg/日、女性290 mg/日、妊婦(付加量)+40 mgとされています。
しかしながら、各推奨量に対する摂取量から見た不足量(推定)は1日当り男性で119~134mg、女性で71~85mgで、近年の上昇傾向が認められます。
マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、悪阻(つわり)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、そして長期記憶、アルツハイマー病、さらには、昨今パンデミックとなった新型コロナウイルス感染症とその重症化リスクなど様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・臨床的・疫学的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。
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