公開日:2012-12-14
日本人のCa/Mg摂取比率が上昇傾向
1978年、フィンランドのKarppanen らは、カルシウム対マグネシウム(Ca/Mg)の食事摂取比率が高いほど、虚血性心疾患の死亡率が高いことを報告しています。わが国では、Ca/Mg摂取比率の報告はありません。そこで、MAG21研究会では、日本人のCa/Mg摂取比率について限られたデータを基に調査検討をしたので、以下に紹介します。
背景:
欧米では、Ca/Mgの食事摂取比率が高いほど、虚血性心疾患の死亡率が高く、また2型糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、および他の炎症に関連した種々の疾患の発症率に影響することが示唆されています。しかし、わが国では、Ca/Mg摂取比率の報告はありません。
目的:
わが国におけるCa/Mg食事摂取比率の推移ついて(限られたデータを基に調査)検討した。
方法:
国民栄養の現状、国民健康・栄養調査、更に文献検索から得た1日当たりの平均Ca、Mg摂取量のデータを分析しました。限られたデータを基にCa/Mg摂取比率を算出しました。
結果:
Ca摂取量のデータは、国民栄養の現状(1946~2002年)、国民健康・栄養調査(2003~2010年)の資料を基にしました。Ca摂取量は1946~1975年頃まで1日平均およそ250から550mgまで上昇しましたが、以後横這いになり、2000年以降は若干減少傾向です(図1)。
Mg摂取量のデータは、鈴江らの論文(1970~1989年)、国民健康・栄養調査(2001~2010年)の資料を基にしました。Mg摂取量は1970~1989年頃まで1日平均およそ350から400mgでしたが、2001~2010年は262から236mgに減少しています(表1、図2)。
Ca/Mg摂取比率は、1970~1989年頃まではおよそ1.3から1.5でしたが、2001年以降は2以上に上昇しています。 (表1、図2)
* 各図表をクリックすると拡大表示します。
結論:
日本人のCa/Mgの食事摂取比率は、1970~1989年頃までは2未満でしたが、2001年以降は2以上に上昇しています。この上昇は、Mgの摂取不足が関係し今後、心疾患、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、および他の炎症に関連した種々の疾患の発症率に影響することが示唆されます。
考察:
わが国の国民一人当たりのCa摂取量は、厚生省(当時)が国民栄養の現状として戦後1946年来毎年調査報告し、厚生労働省が国民健康・栄養調査として2003年来毎年調査報告しています。
一方Mg摂取量は、Caの調査報告より55年後の2001年から厚生省が調査報告を開始しました。Caと比較し、Mgはそれほど研究されていない“オーファン的栄養素(Orphan nutrient)”です。この為、Mgに関する国の認知が相当遅れたため国民の認知が更に遅れています。
Ca/Mg摂取比率に関する研究は、欧米では1970年代から研究発表されて来ました。KarppanenらはCa/Mg摂取比率が高いほど、虚血性心疾患の死亡率が高いことを報告しています。また、当時報告されたCa/Mg摂取比率は、一番低い順番からおよそ日本1.2、ユーゴスラビア2.0、イタリア2.2、ギリシャ2.5、オランダ3.2、アメリカ3.2、フィンランド4.0と発表されました。
* 図をクリックすると拡大表示します。
米国のRosanoffらは、米国における2型糖尿病の有病率と発症率は、食物からのCa/Mg摂取比率が3.0未満から3.0以上に上昇した1994年から2001年にかけて急激に増加していると述べています。Mg必要量の再検討、低Mg状態の理解、Ca/Mg比率の上昇は2型糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、および他の炎症に関連した種々の疾患の発症率に影響することから、優先的にすべき研究課題だと警鐘しています。
(2012.11.27 米国における準最適マグネシウムの栄養状況:健康状態が過小評価されている?)
わが国でも、この分野における疫学研究でCa/Mg摂取比率のみならず、他の栄養素との相互作用の可能性もあるので、今後の研究が期待されます。
参考文献:
国立健康・栄養研究所 「国民栄養の現状」(1947~2002)
www.nih.go.jp/eiken/chosa/kokumin_eiyou/
厚生労働省 「国民健康・栄養調査」(2003~2010)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_ch...
鈴江緑衣郎、上岡薫、小佐野美香:日本人の無機質(リン,カリウム,マグネシウム,亜鉛,銅)の摂取量とその年次推移.昭和女子大学大学院生活機構研究科紀要 2:67-76, 1992
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004727108
Karppanen H, et al. Adv Cardiol. 25:9-24. Review, 1978
Rosanoff A, Weaver CM, Rude RK. Suboptimal magnesium status in the United States: are the health consequences underestimated? Nutrition Reviews 70:153–164, 2012
doi: 10.1111/j.1753-4887.2011.00465.x
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1753-4887...
【コメント】
当ホームページでは、以下のサイトでCa/Mg摂取比率関係について掲載していますので、参考にしてください。
2007.08.23 女性及び小児とメタボリックシンドロームについて マグネシウムとカルシウム・・・
2010.08.05 日本人男性マグネシウム摂取が大腸がん予防
2010.08.26 Caサプリメントで心筋梗塞リスク31%上昇
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