公開日:2013-07-25
マグネシウムは膵β細胞機能を改善してインスリン感受性の変動を補正する: 二重盲検無作為化臨床試験
2011年、メキシコ・Mexican Social Security Instituteの研究者らは、“マグネシウムは膵β細胞機能を改善してインスリン感受性の変動を補正する: 二重盲検無作為化臨床試験”に関する報告をしたので、その論文の概要を以下に紹介します。
背景
インスリン分泌に於けるマグネシウムの役割が不明だとすると、塩化マグネシウム(MgCl2)による経口補充が低マグネシウム血症を呈する非糖尿病者でインスリン感受性の変動を補正する膵β細胞機能を改善させるかどうかを決定することがこの研究の目的です。
方法
対象(者)は、非糖尿病者、正常血圧の男性および非糖尿病者、正常血圧の非妊娠女性で血清マグネシウム値≤0.70 mM/L(1.7 mg/dL以下)で、3ヶ月間毎日50 mLの5%塩化マグネシウム溶液(マグネシウム量450 mgに等しい塩化マグネシウム2.5 g (1000 ml当り50gの塩化マグネシウムを含む50 mlの溶液))または50 mLの不活性液(プラセボ)を摂取した無作為化二重盲検臨床試験としました。
主要なエンドポイントは、空腹時状態に由来する膵β細胞機能(HMbCF)の双曲線モデルのAUC(Area Under Curve, 曲線下の面積)における変化で評価しました。
結果
この研究集団の特徴を表1に示します。
計810人がスクリーニングされ、うち704人は包含基準を満たさず或いは少なくとも1つの除外基準を満たし、残り106人をランダム化しました。計54人と52人を塩化マグネシウムとプラセボ群にそれぞれ割り当てましたが、塩化マグネシウム群の5人およびプラセボ群の4人は途中で止めました。塩化マグネシウムまたはプラセボ群に重篤な有害事象または副作用は認められませんでした。
試験開始時にHMbCFのAUCは、両群(AUC = 7.591 および7.895 cm2)で同様でした[図1(a)]。追跡調査終了時に塩化マグネシウム群の曲線は双曲線分布(AUC = 18.855 cm2)を示しましたが、それに対してプラセボ群(AUC = 7.631 cm2)で変化は認められませんでした[図1(b)]。
注釈:
Belfiore指数の算定式: 2/[1 + (空腹時インスリン pmol/L x 空腹時血糖 mmol/L)]
HOMA-β(インスリン分泌指数)の算定式: 20 x 空腹時インスリン μU/mL/(空腹時血糖 mmol/L – 3.5)
*p値は終了時に於ける塩化マグネシウムとプラセボ間の比較(赤色は統計的有意性を示す)。
図1. インスリン感受性とインスリン分泌能の関係
注釈:
インスリン感受性はBelfiore指数【2/[1 + (空腹時インスリンpmol/L x 空腹時血糖 mmol/L)]】により算定し、インスリン分泌能はHOMA-β(インスリン分泌指数)【20 x 空腹時インスリン μU/mL/(空腹時血糖 mmol/L – 3.5)】により算定することにより、インスリン感受性の変化への膵β細胞機能の適応を評価します。
(a) 臨床試験開始時は、両群対象者の曲線が左と下方に移動することからインスリン抵抗性の増加を補うインスリン分泌不全を示しています。膵β細胞機能のAUCは塩化マグネシウム群7.591 および プラセボ群7.895 cm2でした。
(b) 臨床試験終了時は、塩化マグネシウム群の曲線が双曲線分布を示し、プラセボ群が試験開始時の曲線との差異は認められませんでした。膵β細胞機能のAUCは塩化マグネシウム群18.855 および プラセボ群7.631 cm2でした。
* 各図表をクリックすると拡大表示します。
結論
低マグネシウム血症を呈する非糖尿病者に対し、毎日2.5gの塩化マグネシウム補充はインスリン抵抗性を改善すると共に膵β細胞のインスリン分泌機能をも改善します。
参考資料:
Guerrero-Romero F, Rodríguez-Morán M. Magnesium improves the beta-cell function to compensate variation of insulin sensitivity: double-blind, randomized clinical trial. Eur J Clin Invest 41:405-410, 2011
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2362...
【コメント】
インスリン分泌に関するマグネシウムの役割についてヒトに於けるデータはありませんが、このメキシコの研究者らが初めて人に於ける低マグネシウム血症を伴った非糖尿病者の低マグネシウム血症はインスリン分泌の低下と関連することを報告し、当MAG21研究会で取り上げました。
2013.07.09 インスリン分泌は非糖尿病者の低マグネシウム血症で減少
そこで次に、低マグネシウム血症を伴った非糖尿病者に対し、マグネシウム補充/介入により膵臓β細胞のインスリン分泌機能が改善するかの確認が期待されていました。このメキシコの研究者らは今回、低マグネシウム血症で糖尿病に罹っていない集団に対し、塩化マグネシウム2.5 g/日の補充によりインスリン抵抗性のみならず膵臓β細胞のインスリン分泌機能も改善することを初めて示したことに大変意義があると言えます。
糖尿病及び糖尿病予備群において低マグネシウム血症が多いと言われていますが、医師は一般的に血清マグネシウム濃度を測定していません。我国にも低マグネシウム血症者は相当いると思われるので、常日頃からの食事から十分なマグネシウムの摂取を心掛けて戴きたいものです。
このメキシコの研究者らDr. Rodríguez-Morán M, Dr. Guerrero-Romero Fは昨年メキシコで開かれた国際マグネシウムシンポジウムの会長ご夫妻で、マグネシウムと糖尿病、高血圧、メタボリックシンドローム、うつ病などに関し、精力的に研究を進め多くの研究論文を発表されています。MAG21研究会のホームページでは、一部の研究論文を紹介して来ました。
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マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。