公開日:2014-05-14
日本人の食事摂取基準(2015年版)
厚生労働省から国民に対し、「日本人の食事摂取基準」として男女年齢毎に必要な栄養素とその望ましい摂取量が提示されています。
わが国の食事摂取基準は、厚生労働省が5年毎に見直しをしています。初回は平成16年11月22日「日本人の食事摂取基準(2005年版)」、次に平成21年5月29日「日本人の食事摂取基準(2010年版)」、今回は平成26年3月28日「日本人の食事摂取基準(2015年版)」として公表し、詳細は厚生労働省のホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/syokuji_kijyun.html から公開されています。
日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要
主な内容を一部抜粋します。
策定の目的
日本人の食事摂取基準は、健康増進法(平成14 年法律第103 号)第30 条の2に基づき厚生労働大臣が定めるものとされ、国民の健康の保持・増進を図る上で摂取することが望ましいエネルギー及び栄養素の量の基準を示すものである。
使用期間
使用期間は、平成27(2015)年度から平成31(2019)年度の5年間である。
策定方針
日本人の食事摂取基準(2015 年版)では、策定目的として、生活習慣病の発症予防とともに、重症化予防を加えた(図1)。
対象については、健康な個人並びに集団とし、高血圧、脂質異常、高血糖、腎機能低下に関して保健指導レベルにある者までを含むものとした。
科学的根拠に基づく策定を行うことを基本とし、現時点で根拠は十分ではないが、重要な課題については、研究課題の整理も行うこととした。
図1 日本人の食事摂取基準(2015年版)策定の方向性
ここでは特に、マグネシウムの食事摂取基準について述べます。
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書では、以下の基本的事項が解説されているので、主な内容を一部抜粋します。
定義と分類
マグネシウム(magnesium)は原子番号12、元素記号Mgの金属元素のひとつである。マグネシウムは、骨や歯の形成並びに多くの体内の酵素反応やエネルギー産生に寄与している。生体内には約25 gのマグネシウムが存在し、その50~60%は骨に存在する。
機能
血清中のマグネシウム濃度は1.8~2.3 mg/dLに維持されており、マグネシウムが欠乏すると腎臓からのマグネシウムの再吸収が亢進すると共に、骨からマグネシウムが遊離し利用される。マグネシウムが欠乏すると、低マグネシウム血症となる。低マグネシウム血症の症状には、吐き気、嘔吐、眠気、脱力感、筋肉の痙攣、ふるえ、食欲不振がある。また、長期にわたるマグネシウムの不足が、骨粗鬆症、心疾患、糖尿病のような生活習慣病のリスクを上昇させることが示唆されているが、更なる科学的根拠の蓄積が必要である。
消化、吸収、代謝
マグネシウムの腸管からの吸収率は、成人で平均摂取量が約300~350 mg/日の場合は約30~50%であり、摂取量が少ないと吸収率は上昇する。4~8歳のアメリカ人の小児では摂取量が約200 mg/日の場合、マグネシウムの吸収率は60~70%であった。
生活習慣病の発症予防及び重症化予防
主な生活習慣病との関連
糖尿病
マグネシウム摂取量と2型糖尿病との関連について検討した13の前向きコホート研究のメタ・アナリシスでは、マグネシウム摂取量と2型糖尿病の罹患リスクは負の相関を示し、100 mg/日のマグネシウム摂取量増加は、相対リスクを0.86に低下させた。カルシウムの場合と同様に、マグネシウムの補給摂取(マグネシウム630 mg/日相当)によるメタボリックリスク改善の報告(50歳代の2型糖尿病患者が対象)がある。しかし、糖尿病の予防に必要なマグネシウムの摂取量を明らかにするためには、更なる縦断研究の蓄積が必要である。
慢性腎臓病
慢性腎臓病では、低マグネシウム血症(<1.8 mg/dL)を呈する患者は、死亡率が高く腎機能低下速度が速いと言う報告がある。特に糖尿病腎症の患者では血清マグネシウム値が低下しやすく、そのような患者で腎機能低下速度が速い。一般に腎機能低下と共に血清マグネシウム値は上昇するが、目標量は科学的根拠が無く不明である。
マグネシウムの食事摂取基準(mg/日) 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
1 通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量は成人の場合350mg/日、小児では5mg/kg体重/日とする。それ以外の通常の食品からの摂取の場合、耐容上限量は設定しない。
* 各図表をクリックすると拡大表示します。
参考資料:
厚生労働省 報道発表資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」の報告書平成26年3月28日健康局がん対策・健康増進課栄養指導室
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000041733.html
【MAG21研究会コメント】
マグネシウムの食事摂取基準量は、平成元年(1989)の「第4次改訂栄養所要量」で初めて取り上げられ、目標摂取量300 mg(例として、男性30~49歳)とされました。その後、マグネシウムの重要性が指摘されるも国はなかなか認めず第6次改訂で、漸く栄養所要量として320 mgが策定され、平成16年(2005年版)に漸く推奨量として370 mg(例として、男性30~49歳)まで増量。平成21年(2010年版)には370 mg(例として、男性30~49歳)、平成26年(2015年版)でも370 mg(例として、男性30~49歳)とし、全く改訂されていません。
わが国のマグネシウムの食事摂取基準量は、平成21年5月29日「日本人の食事摂取基準(2010年版)」と平成26年3月28日「日本人の食事摂取基準(2015年版)」を比較すると、年齢区分毎に若干の増加はありますが、全体的に殆ど変わっていません。2010年版と2015年版の推奨量を比較すると、男性15~17歳で350から360 mg、女性10~11歳で210から220 mg、12~14歳で280から290 mg、15~17歳で300から310 mg、70歳以上で260から270 mgにそれぞれ増加しました。
なお、今回の厚労省の報告書に、血清マグネシウム値が1.8から2.3 mg/dLとありますが、一般的な測定法であるキシリジルブルー法では1.8から2.6 mg/dLが一般的です。しかしながら現在の基準値は下限が低すぎる問題が指摘されており、完全健常者では2.2~2.6㎎/dLです。
MAG21研究会のホームページサイト 2014.01.07 平成24年国民のマグネシウム摂取量やや上昇 でお知らせしていますが、男性30~49歳でマグネシウムの1日当りの推奨量370 mgに対し、平均摂取量は236~248 mg/日で、およそ1/3の122~134 mgが不足しているのが現状と言えます。更に、厚生省(当時)が初めて国民栄養調査にマグネシウムを含めた平成13(2001)年から平成24(2012)年の摂取量は、この12年間で1日当りおよそ280 mgから230 mg代まで減少していることは注目される点です。この様に不足している状況下でも、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、次の平成27(2015)年度から平成31(2019)年度までの5年間も以前と同じ推奨量が提示されています。
当ホームページでは、マグネシウムと糖尿病、高血圧やメタボリックシンドロームとの密接な関係についても解説して来ました。
2013.12.12 マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究
2013.07.25 マグネシウムは膵β細胞機能を改善してインスリン感受性の変動を補正する: 二重盲検無作為化臨床試験
2013.07.09 インスリン分泌は非糖尿病者の低マグネシウム血症で減少
2013.03.28 そばのひ孫と孫(は)優しい子かい? 納得!
2013.02.18 マグネシウムと健康:栄養、医薬品、環境の観点から
2013.02.01 経口マグネシウム補充は非糖尿病者のインスリン抵抗性を低減: 二重盲検プラセボ対照ランダム化試験
2012.11.27 米国における準最適マグネシウムの栄養状況:健康状態が過小評価されている?
2012.05.29 日経メディカル 第55回日本糖尿病学会ダイジェスト
2012.02.21 特集:マグネシウムと生活習慣病 日本人の食生活はマグネシウム不足
2012.01.24 塩化マグネシウム補充による降圧効果の臨床試験
2011.11.17 高齢2型糖尿病患者のうつ治療における経口マグネシウムサプリメントの有効性と安全性: ランダム化、同等性試験
2011.09.21 マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスク
2011.02.17 低Mg濃度は糖尿病患者のグリコヘモグロビン(糖化ヘモグロビン:HbA1c)上昇に関連
2011.01.2 マグネシウム摂取とメタボリックシンドロームの関係
2010.12.21 マグネシウム摂取量と全身性炎症、インスリン抵抗性と糖尿病発症との関連
2010.09.14 マグネシウム摂取量と全身性炎症、インスリン抵抗性と糖尿病発症との関連
2010.02.24 健常ヒト被検者の食後血清脂質反応に対するマグネシウムの影響
2009.12.29 生活習慣病に対するミネラル栄養の重要性 Mg(マグネシウム)
2009.09.08 WHO 飲料水中のカルシウムとマグネシウム: 公衆衛生的意義 2009
2009.03.13 糖尿病と合併症 -生活習慣との関わり-
2009.02.10 糖尿病予備群含め2210万人=1年で340万人増 厚労省
2008.08.13 低マグネシウム血症と代謝性グルコース障害リスク: 10年追跡調査研究
2008.06.03 『第51回日本糖尿病学会』で横田先生が発表
2008.02.04 『日本糖尿病療養指導士認定機構 CDEJ News Letter』に横田先生の記事が掲載
2008.01.23 WHO報告書 『飲料水中の栄養素』-その2-
2008.01.22 WHO報告書 『飲料水中の栄養素』-その1-
2007.08.21 メタボリックシンドロームの予防 -その2-
2007.08.20 メタボリックシンドロームの予防 -その1-
マグネシウム摂取と糖尿病発症リスクの関連の臨床疫学研究は可也エビデンスが揃ってきています。また、二重盲検試験の介入研究で、血糖コントロールへの影響やインスリン抵抗性改善作用の報告があるにも関わらず、厚労省は依然消極的なままです。
なお、糖尿病やメタボリックシンドロームなどとマグネシウム摂取不足との関係は、横田邦信著の“マグネシウム健康読本”(現代書林)、“糖尿病ならすぐに「これ」を食べなさい!”(主婦の友社)にも詳しく書かれていますのでご参考にして下さい。
今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知されて食育にも取り入れられる事が切に望まれます。
この記事に対するご意見やご質問を心からお待ちしております。