公開日:2011-09-21
マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスク: 前向きコホート研究のメタ解析
2011年9月、中国Soochow大学と米国ノースカロライナ大学医学部の研究者らは、マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスクに関し、2011年1月迄に世界で発表された論文13報の前向きコホート研究*のメタ解析(過去に発表された論文を解析)結果を報告したので、その論文概要を以下に紹介します。
* コホート研究は、疫学分析における研究手法の1つで、ある要因に曝露した集団と曝露していない集団を追跡調査して、研究対象疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生との関連を調べる方法です。要因対照研究(factor-control study)と同義です。コホート研究は集団を前向きに調査追跡しているので、曝露から疾病の発生までの過程を見れる特徴があります。
目的:
疫学的エビデンスが明らかになり、より高マグネシウム摂取が糖尿病発症率を減少させるかもしれないことを示唆します。前向きコホート研究のメタ解析を行なうことによりマグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスクの関連を調査することが目的です。
デザインと方法:
マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスクの前向きコホート研究を確認するために、2011年1月迄のPubMedデータベース検索(世界最大の医学関連文献データベース)を行ないました。検索された参考文献一覧を調査しました。変量効果モデルはリスク評価を推計するために使用されました。
結果:
参加者536,318人および発症数24,516例に関する13(1999~2010年の文献)の前向きコホート研究のメタ解析は、マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスク間で有意な逆の関係を見出しました(相対リスク [RR] 0.78 [95% CI 0.73-0.84])。この関係は、地理的地域、フォローアップ期間、性別あるいは2型糖尿病の家族歴によって修正しても変わりませんでした。相互作用に対する検定は統計的に有意ではありませんでしたが(Pinteraction = 0.13)、有意な逆の関係は普通体重(BMI <25kg/m2)ではなく肥満体重者(BMI ≥25kg/m2)で観察されました。用量反応分析では、マグネシウム摂取量100 mg/日増加ごとの2型糖尿病の相対リスクは0.86(95% CI 0.82–0.89)でした。穀物繊維摂取のための調整に限定した感度分析で同様の結果が得られました。出版バイアスの存在はほとんど観察されませんでした。
結論:
このメタ解析は、マグネシウム摂取が有意に逆に用量反応効果における2型糖尿病発症リスクに関連することを裏付けている詳細なエビデンスを提供します。
参考資料:
Dong JY, Xun P, He K, Qin LQ. Magnesium Intake and Risk of Type 2 Diabetes: Meta-analysis of prospective cohort studies. Diabetes Care 34:2116–2122, 2011
http://care.diabetesjournals.org/content/34/9/2116.abstract
【コメント】
研究者らの実績を含めて過去10年間の論文のメタ解析でマグネシウム摂取が有意に2型糖尿病発症リスクに関連することを裏付けした研究結果を公表されたことに意義があると言えます。
世界的に2型糖尿病の有病者数、有病率が急激に増加している背景の要因の一つに食事性マグネシウム摂取が関係している事実を認識して戴きたいものです。
2型糖尿病の予防には、一般に食事、運動などの生活習慣の是正について啓発されていますが、若い時から各個人の食習慣、特に、毎日の食事からマグネシウム摂取について意識して戴きたいと思います。
2004年に我国で戦後2型糖尿病が激増した要因のひとつに慢性的なマグネシウム摂取不足が一因である“マグネシウム仮説”を当MAG21研究会メンバーの横田が提唱しましたがそれを立証する論文と言えます。
東京慈恵会医科大学 教授 横田邦信先生は以前からマグネシウムと2型糖尿病(マグネシウム仮説)やメタボリックシンドローム等の生活習慣病との密接な関係、マグネシウム摂取の重要性について持論を展開し論文にも発表されています。
当ホームページの以下論文、書籍およびサイトをご参考にしてください。
2011.02.24 社会保険診療報酬支払基金『月刊基金』に横田先生の論文が掲載
2010.12.21 マグネシウム摂取量と全身性炎症、インスリン抵抗性と糖尿病発症との関連
2010.05.19 『健康のひろば』平成22年5月11日号に横田先生登場
2010.02.24 健常ヒト被検者の食後血清脂質反応に対するマグネシウムの影響
2009.12.29 生活習慣病に対するミネラル栄養の重要性 Mg(マグネシウム)
2009.01.19 マグネシウムの脂肪細胞分化に及ぼす影響
2008.06.03 『第51回日本糖尿病学会』で横田先生が発表
2008.02.04 『日本糖尿病療養指導士認定機構 CDEJ News Letter』に横田先生の記事が掲載
2007.10.19 マグネシウムの食後高脂血症に及ぼす影響
2007.09.26 マグネシウムQ&A Q7 マグネシウムは、生活習慣病の予防以外の疾病予防にも利用できますか?
2007.08.23 女性及び小児とメタボリックシンドロームについて マグネシウムとカルシウム・・・ マグネシウムとカルシウム摂取量の割合が重要ですか?
2007.08.20 メタボリックシンドロームの予防 -その1-
横田邦信: 2型糖尿病発症-インスリン分泌とインスリン抵抗性へのマグネシウムの関与.分子糖尿病学の進歩-基礎から臨床まで-2006.(門脇 孝、春日雅人、清野 進、渥美義仁・編)、第1版、pp108-116、金原出版、東京、2006
(マグネシウム仮説に関する論文)
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。