公開日:2014-06-03
日本人のカルシウムとマグネシウムの食事摂取比率は2より低く、1.5~1が望ましい
MAG21研究会は、食事から摂るカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)の比率が重要であるとの認識から調査した結果を報告します。食事から摂るCaとMgの比率はどのくらいが望ましいかに対し、日本人のCaとMgの食事摂取比率は2より低く、1.5~1が望ましいと考えられます。
この比率「2より低く、1.5~1が望ましいと考えられます。」に関する背景として以下の論文が根拠になります。
1957年、岡山大学の小林純教授が、日本各地の河川の酸度・アルカリ度と地域住民の脳卒中の死亡率を調査し、酸性の水のある地域では脳卒中での死亡率が高く、アルカリ性の水の地域では死亡率が低く、水の硬度が脳卒中の死亡率と逆相関すると報告しました。この報告は大きな反響を呼び欧米で追試されました。
Kobayashi J. On geographical relationship between the chemical nature of river water and death-rate from apoplexy. Berichte des ohara institutes fur landwirtschaftliche biologie 11:12-21, 1957
1964年、Mildred SeeligはCa摂取量が食事性Mgの身体保持における因子である可能性があることを示しました。
Seelig MS. The Requirement of Magnesium by the Normal Adult. Summary and Analysis of Published Data. Am J Clin Nutr 14: 242–90, 1964
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14168977
1978年、Karppanenは虚血性心疾患(狭心症・急性心筋梗塞)と食事中のCa/Mg比の関係を調査し、食事摂取比率が高いほど、虚血性心疾患の死亡率が高いことを報告しました。当時報告されたCa/Mg摂取比率は、一番低い順番からおよそ日本1.2、ユーゴスラビア2.0、イタリア2.2、ギリシャ2.5、オランダ3.2、アメリカ3.2、フィンランド4.0と発表しました。
Karppanen H, et al. Adv Cardiol. 25:9-24. Review, 1978
MAG21研究会のHP “2012.12.14 日本人のCa/Mg摂取比率が上昇傾向” から引用
1989年、Jean DurlachはCa/Mg比2:1を提唱し、比率(2:1)はMg摂取量に対しCa摂取量は超過すべきではない上限量と警告しました。
Durlach J. Recommended Dietary Amounts of Magnesium: Mg RDA. Magnes Res 2(3): 195–203, 1989
1996年、Burton Alturaは国際学術フォーラム(東京) 食事性Caと心・血管系疾患で以下の内容も発表しています。
米国における疫学および食生活関連のデータを見ると、20世紀初頭のCa摂取量は1日約550~650mg、Mg摂取量は1日約450~500mgであり、Ca・Mg摂取モル比は約0.70~0.80であった。この低いCa・Mg摂取比と一致して、1900年には高血圧と虚血性心疾患発生率も非常に低かった。今日、すなわち1996年では、Ca・Mgの摂取モル比は約3~4.5:1に上がり、高血圧と虚血性心疾患の発生率も高くなっている。われわれの実験的および臨床的データによると、血清イオン化Ca・Mg比が2以下の場合、高血圧、虚血性心疾患、心血管疾患の発生やリスクが低いことが示されている。心血管系を健全に保つには、絶対量よりもCaとMgを正確な比率で摂取することの方が重要だと考えられる。
Altura BM. Magnesium and calcium balance in cardiovascular biology. 1996 国際学術フォーラム(東京) 食事性Caと心・血管系疾患:高血圧を中心として.社団法人 全国牛乳普及協会
2012年、Rosanoff はThe 2-to-1 Calcium-to-Magnesium Ratioについての総説を発表し、Durlachが提唱したCa/Mg比2:1は、Mg摂取量が300 mg/日であるならばCa摂取量は600 mgを超えるべきではないが、より低いCa/Mg比で1:1或いは更に低い比率としても安全であると報告しました。
Rosanoff A. The 2-to-1 Calcium-to-Magnesium Ratio 2012
By A. Rosanoff, PhD, Director of Research & Science Information Outreach, Center for Magnesium Education & Research, LLC, www.MagnesiumEducation.com
わが国では
1986年、京都大学の糸川嘉則名誉教授が以下の内容を報告されています。
わが国の1人1日あたりのMg摂取量は240mgで、米国の344mgに比べると少ないが、Ca摂取もあまり多くないため、Ca/Mg比は米国の2.7に対して2.2と低くなっている。ただこの比率は欧米風の食事の影響によってCa摂取量が増え、次第に上昇しつつある。虚血性心疾患による死亡率が1965年の人口10万対28.5から、1980年の41.6まで増加している背景の1つとして、こうしたCa/Mg比の上昇が考えられる。Ca/Mg比のレベルは2.00ぐらいが適切で、わが国の場合は、Ca 所要量が600mg程度だから、Mgの摂取量は300mg前後が望ましい。
糸川嘉則: Mgと循環器疾患-疫学・衛生学の立場から-.Mgと循環器疾患.メディカル トリビューン 21-30, 1986
2012年、MAG21研究会は日本人のCa/Mg摂取比率について限られたデータを基に調査した結果を同会のホームページで報告しました。
日本人のCa/Mgの食事摂取比率は、1970~1989年頃まではおよそ1.3から1.5でしたが、2001年以降は2以上に上昇し、2010年は2.16でした。この上昇は、Mgの摂取不足が関係し今後、心疾患、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、および他の炎症に関連した種々の疾患の発症率に影響することが示唆されます。
MAG21研究会のHP “2012.12.14 日本人のCa/Mg摂取比率が上昇傾向”から引用
* 各図をクリックすると拡大表示します。
参考としてわが国のCa/Mg摂取比率の現状を示します。
日本人の食事摂取基準(2015年版)のCa;Mg推奨量(男性30-49歳)はCa 650 mgに対しMg 370 mg、比率1.75です。
日本人の食事摂取基準(2015年版)のCa;Mg推奨量(女性30-49歳)はCa 650 mgに対しMg 290 mg、比率2.24です。
国民栄養調査(2012年)では男女計のCa 499 mgに対しMg 238 mg、比率2.09です。
国民栄養調査(2012年)では男性30-49歳のCa 430-443 mgに対しMg 236-248 mg、比率およそ1.8です。
国民栄養調査(2012年)では女性30-49歳のCa 436-424 mgに対しMg 209-214 mg、比率およそ2.0です。
【コメント】
当ホームページでは、以下のサイトでCa/Mg摂取比率関係について掲載していますので、参考にしてください。
2007.08.23 女性及び小児とメタボリックシンドロームについて マグネシウムとカルシウム・・・マグネシウムとカルシウム摂取量の割合が重要ですか?
2010.08.05 日本人男性マグネシウム摂取が大腸がん予防
2010.08.26 Caサプリメントで心筋梗塞リスク31%上昇
2012.11.27 米国における準最適マグネシウムの栄養状況:健康状態が過小評価されている
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