特集:マグネシウムと生活習慣病

公開日:2012-02-21

特集:マグネシウムと生活習慣病 日本人の食生活はマグネシウム不足



日本人の生活では、食生活の“半欧米化”によって、マグネシウムの摂取不足が慢性化しています。マグネシウムの不足は、2型糖尿病やメタボリックシンドロームなど生活習慣病の発症と密接な関係があります。東京慈恵会医科大学 横田邦信教授に、マグネシウムと生活習慣病の密接な関係について解説して戴きました。



なお、この内容は、当ホームページの「2011.06.24マグネシウムと生活習慣病」でお知らせしましたが、以下の日本生活習慣病予防協会、糖尿病ネットワークなどの関連サイトに掲載されたのを引用改編したものです。特に、図は大幅に更新致しました。



  日本生活習慣病予防協会



http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2011/...



  糖尿病ネットワーク



http://dm-net.co.jp/calendar/2011/011605.php



  特定健診・特定保健指導



http://mhlab.jp/calendar/2011/007252.php



  大人の健康生活ガイド



http://mhlab.jp/calendar/kenkou-seikatsu/2011/06/...



なぜ糖尿病は戦後、激増したのでしょう?



2型糖尿病の有病率は戦後激増し、現在もその傾向は衰えていません。なぜでしょう?そのヒントになるのが下の図1です。



図1. わが国における戦後の糖尿病推定有病率と生活環境の推移



10-087 DM有病率と生活環境



穀物(特にマグネシウムが豊富な大麦・雑穀など)の摂取量が激減した時点と、糖尿病が増え始めた時点が一致することが注目されます。糖尿病の発症要因は脂肪摂取量の増加と運動不足による肥満が定説となっています。しかし、脂肪摂取量は1980年代以降には横這いか減少傾向になり、エネルギー摂取量は1970年代以降には減少しているにも拘らず糖尿病有病率は増加しています。この増加の背景には、国民の食事性マグネシウムの摂取不足と高齢者人口の増加・加齢による影響が関係しています。



厚生労働省による「平成22年国民健康・栄養調査結果の概要」では、高血糖の状況として血糖値の平均値は、男性103.8mg/dL、女性100.9mg/dLであり、 平成12年に比べて男性では変わらず、女性では低下していますが、糖尿病が強く疑われる者の割合は、男性17.4%、女性9.6%であり、平成14年に比べて男女とも増加しています。



糖尿病が強く疑われる者の割合(30歳以上)(平成14年*と22年の比較)



10-088 DM強く疑われる者の割合 30歳以上



多くの生活習慣病の病態の根底に、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い状態)という共通因子があります。何らかの原因で生じたインスリン抵抗性に対して、日本人はもともと農耕民族でインスリン分泌能が欧米人に比べて弱く、インスリン分泌の代償不全を起こし、容易に糖尿病を発症すると考えられます。



日本人は慢性的なマグネシウムの摂取不足をきたしているとお聞きしましたが、長期にわたるマグネシウムの不足が、2型糖尿病などの生活習慣病のリスクを上昇させているのでしょうか?



インスリン抵抗性の共通因子の成因のひとつに、腹部肥満とは独立してマグネシウムの慢性的な摂取不足が大きく関わっていることが近年明らかになっています。また、マグネシウム摂取不足は糖尿病発症とも深く関連していると考えられます。



マグネシウム摂取量が少ない群からの糖尿病発症が有意に多いという報告(文献1~4)や、マグネシウム摂取量が多いと糖尿病発症リスクが10~20%(文献3)、47%(文献4)減るという報告があります。さらに、マグネシウム摂取量が多いと炎症性マーカ濃度(IL-6、高感度CRP)が低いことが報告(文献4)され、動脈硬化との関連でも注目されています。



原因としては、腹部肥満に基づくインスリン抵抗性の他に、慢性的なマグネシウム摂取不足によるインスリン抵抗性がありますが、特に、戦後、マグネシウムの慢性的摂取不足に陥っていることが大きく関わっているとみられます。これが日本人はあまり太っていなくても糖尿病になりやすいことを説明できる“マグネシウム仮説(横田)”(文献5)なのです。



図2. 日本人2型糖尿病発症とMgの関係(マグネシウム仮説:横田)



10-089 Mg仮説



マグネシウムは神経、筋肉の伝達にも関与しており、不足すると“こむら返り”が起きやすくなります。こむら返りは痛みを伴う筋肉の痙攣のことで、運動時に起こるほか、糖尿病や肥満の患者さんで高頻度にみられ、マグネシウムを補充すると有効なことが知られています。



マグネシウムはどのような働きをしていますか? また、日本人ではマグネシウムはどれくらい不足していますか?



マグネシウムは体に必須なミネラルの一種であり、健康維持に欠かすことのできない栄養素です。



成人では、体内に約25gが存在し、その60~65%が骨や歯の構成成分となっており、残りは筋肉や軟部組織に存在します。およそ350種類、特に高エネルギー産生に係わる酵素を活性化する働きがあり、細胞内外のミネラルバランスを調整する働きは特に重要です。筋肉の収縮や神経情報の伝達、体温・血圧の調整にも重要です。



日本人の食事摂取基準(2005年版および2010年版)による男性30~49歳でマグネシウムの推奨量は、1日当り370mgです。この推奨量と比較すると、1日当りの平均摂取量は、厚生労働省による「平成22年国民健康・栄養調査結果の概要」では男性30~49歳で240~244mgと126~130mg不足状態が持続しています。



マグネシウム不足の原因は何でしょうか?



日本人のマグネシウム不足の原因として考えられるのは「食生活の“半欧米化”」、「精製塩の過剰摂取」、飲料水、生活習慣の変化などです。



戦後、日本人の昔からの伝統的な食生活が大きく変化し、特にマグネシウムの豊富な大麦や雑穀などの全粒穀物の摂取が減りました。逆に高脂肪、高カロリーの摂取が増え、結果としてマグネシウムの摂取量が減少したと考えられます。



また、日本では1972年に塩田法が廃止されるまでは、精製されていない粗塩(あらじお)が多く使われていました。粗塩にはマグネシウムをはじめとするミネラルが多く含まれます。また、ライフスタイルの変化に伴い、外食やファストフードを利用する習慣が増え、日本人は塩分を摂り過ぎています。塩分の過剰摂取により、体内からのマグネシウムの排泄が増え、マグネシウムはさらに不足気味になりました。



日本各地の河川は、マグネシウムやカルシウムの少ない軟水(硬度:100以下)です。



日常の生活習慣においてストレスが社会現象になったのは、戦後の日本が高度成長期を迎えてからといわれていますが、マグネシウムとストレスは深い関係にあります。ストレスがかかると、尿中にマグネシウム量が増えると報告されています。また、アルコールの過剰摂取はマグネシウムの消費と尿中への排泄を増やします。



マグネシウムを十分に摂るためにどうすれば良いのでしょうか?



マグネシウムの不足を防ぐために、日頃の食生活でマグネシウムを多く含む食品を意識して摂る、すなわち伝統的な日本の和の食材を中心とする食生活に改善すると効果的です。



また、日本人の食卓には食塩を含む食品がたくさんあるため、ついつい食塩を摂りすぎてしまいがちです。普段の食事の塩分を減らし、塩分を控えることを心掛ける必要があります。加えて、運動を習慣的に行うことが、2型糖尿病やメタボリックシンドロームの予防・改善につながります。



マグネシウムは健康長寿に必須・主要なミネラルです。食生活で意識してマグネシウムを摂るために、私は「そばのひ孫と孫(は)優しい子かい?納得!」という標語を提唱しています。



        マグネシウムが多く含まれる食品

10-099 そばのひ孫・・・



マグネシウムを正しく理解する委員会作成小冊子第4版(マグネシウム知って納得)より引用



また、マグネシウムはストレスが加わると尿中にたくさん排泄され、さらに不足気味になります。上手にストレスをコントロールすることも大切です。



食事だけからの補充が難しい場合は栄養機能食品(マグネシウム)など健康食品やサプリメントを利用することもひとつの手段です。実際、マグネシウムの補充がインスリン抵抗性を改善して血糖のコントロールを良くし、高血圧、脂質異常症にも大きな効果を発揮することを実証した臨床研究(文献8、11)もあります。



文献



1.          Lopez-Ridaura R, et al., Diabetes Care 27:134-140, 2004



2.          Larsson SC,et al., J Intern Med 262:208-214, 2007



3.          Song Y, et al., Diabetes Care 27:59-65, 2004



4.          Kim DJ, et al., Diabetes Care 33:2604-2610, 2010



5.          横田邦信:2型糖尿病発症-インスリン分泌とインスリン抵抗性へのマグネシウムの関与. 分子糖尿病学の進歩-基礎から臨床まで-2006. pp108-116, 金原出版, 東京, 2006



6.          横田邦信著“メタボリックシンドローム”対策の必須ミネラル「マグネシウム健康読本」 現代書林 2006年9月発行」



7.          Rodriguez-Moran M, et al., Diabetes Care 26:1147-1152, 2003



8.          Yokota K, et al., J Am Coll Nutr 23:506S-509S, 2004



9.          Guerrero-Romero F, et al., Diabetes Metab 30:253-258, 2004



10.       He K, et al., Circulation 113:1675-1682, 2006



11.       Guerrero-Romero F and Rodríguez-Morán M. Journal of Human Hypertension 23:245-251, 2009



12.       「平成22年国民健康・栄養調査結果の概要」2012(平成24)年1月31日厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室 報道発表資料



マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。


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