マグネシウムの治療用途

公開日:2016-06-18

マグネシウムの治療用途

2009年、米国コネチカット大学医学部、ペンシルバニア大学看護学部、ペンシルバニア大学医学部の研究者らの“マグネシウムの治療用途”についての総説がAmerican Family Physician(アメリカ家庭医)雑誌に掲載されたので、その論文概要を紹介致します。

マグネシウムは、代謝機能を最適化するために必須なミネラルです。調査では、食物由来のマグネシウムのミネラル含有量が減少していることとマグネシウムの減少は、ある種の慢性疾患を有する人に認められています。研究では、子癇および子癇前症、不整脈、重度の喘息、片頭痛でマグネシウムの有効性が示されています。他の分野で有望な結果が示されているのは、メタボリックシンドロームのリスク低下、グルコースおよびインスリン代謝の改善、月経困難症の症状緩和、妊婦の脚のけいれん(こむら返り)の軽減などがあります。便秘や消化不良に対するマグネシウムの使用はエビデンスが限られていますが、標準治療として受け入れられています。マグネシウムは適切な用量で投与された患者においては安全ですが、高用量で有害作用を引き起こす可能性があります。マグネシウムは腎臓で排泄されるので、腎疾患患者には慎重に使用する必要があります。食物由来のマグネシウムとしては、緑葉野菜、ナッツ、豆類、全粒穀物があります。

薬理学

マグネシウムは細胞内で2番目に豊富な2価の陽イオンで、体内300以上の代謝反応のための補因子です。これらの代謝過程に、タンパク質合成、細胞のエネルギー産生と貯蔵、細胞の成長と再生、DNAとRNAの合成、ミトコンドリア膜の安定化などで関与しています。マグネシウムは、骨代謝、心臓興奮性、神経・筋伝達、筋収縮、血管運動神経性緊張と血圧に重要な役割を果たすミネラルの1つです。マグネシウムはまた、主にチロシン・キナーゼ活性、ホスホリラーゼβキナーゼ活性、ブドウ糖輸送タンパク質の活性へ影響を及ぼし、ブドウ糖とインスリンの代謝に重要な役割を果たしています。マグネシウム含有のサプリメントは、これらの状況に治療効果が期待できます。

子癇と子癇前症

硫酸マグネシウム(静注および筋注)は数十年間、標準治療薬として子癇および子癇前症の治療に比較的有効性が高いと評価されています。マグネシウムの使用は、短期的には母親や乳児に有害な影響を及ぼすことはありません。

不整脈

静脈内マグネシウムの使用は、トルサ・ド・ポアン型のまれな心室頻拍を補正するために良く知られた治療方法です。メタ解析の結果として、静脈内投与で硫酸マグネシウム1.2~10gの急速な心房細動の急性期管理のために安全で効果的な治療方法であることが示唆されています。6週間の無作為化二重盲検クロスオーバー試験では、経口マグネシウムの補充が冠動脈疾患に続発する安定性うっ血性心不全患者で見られる無症候性心室不整脈の頻度を減少させることが示されました。

喘息

コクラン・レビュー2005年において、急性喘息でβ2アゴニストに加えて吸入硫酸マグネシウムの使用は、マグネシウム噴霧が肺機能を改善し、入院日数がより少なくなる傾向が示されました。

頭痛

群発性頭痛と典型的或いは一般的な片頭痛、特に月経片頭痛の患者は、血中マグネシウム濃度が低いことが調査で明らかになりました。ドイツで行われた前向き多施設二重盲検無作為化試験で、経口クエン酸マグネシウム1日1回投与量600 mgはプラセボと比較して大幅に片頭痛の頻度を減少させたことが示されましたが、1日2回の低い投与量では効果が認められませんでした。片頭痛の急性期治療のための静脈内硫酸マグネシウム投与は、前兆患者におけるすべての症状の治療において統計学的に有意な改善を示しました。

消化不良

自己治療の選択肢としてもう一つの一般的な症状は胃食道逆流症(GERD)です。無作為化二重盲検クロスオーバー試験では、制酸剤ハイドロタルサイト(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸塩、水)の治療がファモチジン(ペプシド)またはプラセボよりも有効であることが示されました。

便秘

しばしば患者は、自身で市販薬の水酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウムなどで便秘の処置をしています。

その他

マグネシウムは、カリウム、果物、野菜、または経口サプリメントを組み合わせた食事成分として骨密度を維持、または向上させることに深く関与しています。ある研究では、成人18~30歳のより高いマグネシウム摂取量はメタボリックシンドロームを発症するリスクが低いことが示唆されています。さらに、別の研究では、低マグネシウム血症と成人におけるメタボリックシンドロームとの間に正の相関が示されました。

用量

経口マグネシウムサプリメントは、成人1日あたり350 mg(マグネシウム元素量として)の上限摂取量以下の使用用量であれば安全です。食事性マグネシウムには摂取量の上限はありません。マグネシウムは、子供1~3歳1日あたり65 mgの耐容上限摂取量を下回る用量、子供4~8歳1日あたり110 mg、および子供8歳以上1日あたり350 mgの使用量が安全です。

参考資料:

Guerrera MP, Volpe SL, Mao JJ. Therapeutic uses of magnesium. American Family Physician 80:157-162, 2009

http://www.aafp.org/afp/2009/0715/p157.html

コメント

本総説論文は2009年にアメリカ家庭医雑誌に掲載されたものです。食物由来のマグネシウム含有量が減少しているのは、アメリカのみならずわが国でも認められています。特にわが国では、戦後の主食からのマグネシウム摂取源である大麦・雑穀等の穀物摂取量の激減により、糖尿病の有病率が激増しています。マグネシウムは、ブドウ糖とインスリンの代謝に重要な役割を果たしています。マグネシウムは、食事からの摂取量の上限がありませんので、日頃から積極的に摂取して、糖尿病などの生活習慣病の予防と改善に役立てていただきたいものです。

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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