塩化マグネシウム補充による降圧効果の臨床試験

公開日:2012-01-24

マグネシウム補充による低マグネシウム血症を伴った糖尿病高血圧成人の降圧効果: 無作為化二重盲検、プラセボ対照臨床試験



2009年、メキシコMexican Social Security Instituteの研究者らは、塩化マグネシウム補充による低マグネシウム血症を伴った糖尿病高血圧成人の降圧効果の臨床介入試験に関する報告をしたので、その論文概要を以下に紹介します。



目的:



経口マグネシウム補充(塩化マグネシウム(MgCl2)液)の降圧効果を検討するために、利尿剤治療でなくカプトプリル剤を併用している低マグネシウム血症(マグネシウム濃度<0.74mmol/L(1.8 mg/dL))を伴う糖尿病高血圧成人で二重盲検プラセボ対照の試験を行いました。



方法:



当初370人の患者がスクリーニングされ除外基準適用後、40〜75歳で82人の対象者がランダムに登録されました。4か月以上、一日当り介入グループ対象者42人はマグネシウム量450 mgに等しい塩化マグネシウム(MgCl2) 2.5 g (1000 ml当り50 gのMgCl2を含む50 mlの溶液)およびコントロール対象者40人はプラセボを服用しました。主要なアウトカム(エンドポイント)は収縮期(SBP、<140 mm Hg)および拡張期(DBP、<90mm Hg)血圧の低下でした。



結果:



82例のランダム化対象者のうち79例が完全に最後までにフォローされました。マグネシウムグループはコントロール対象者のプラセボグループと比較し、収縮期(SBP)(−20.4±15.9 対−4.7 ± 12.7 mm Hg, P=0.03) および拡張期(DBP)(−8.7±16.3 対  −1.2±12.6 mm Hg, P=0.02)血圧は有意に低下し、そしてHDLコレステロール値(high-density lipoprotein-cholesterol)(0.1±0.6対 −0.1±0.7 mmol/L , P=0.04)は有意に増加しました。血清マグネシウムと血圧間の調整後のオッズ比は2.8(95%CI: 1.4–6.9)でした。



結論:



塩化マグネシウム(MgCl2)の経口マグネシウム補充は、低マグネシウム血症を伴った糖尿病高血圧成人の収縮期(SBP)および拡張期(DBP)の血圧を有意に低下させます。



参考文献:



Guerrero-Romero F and Rodríguez-Morán M. The effect of lowering blood pressure by magnesium supplementation in diabetic hypertensive adults with low serum magnesium levels: a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial. Journal of Human Hypertension 23:245-251, 2009



http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19020533



コメント



この臨床介入試験では塩化マグネシウム補充は低マグネシウム血症を伴った糖尿病高血圧成人の血圧を下げHDLコレステロールを上げる効果を示したことに意義があると言えます。



研究者らのデータに基づき、マグネシウム補充は低マグネシウム血症のためリスク要因を持った患者で高血圧症の治療には補助剤であるべきで、また、マグネシウム不足と高血圧症患者のために実施されるべきであるという声明を支援します。



この臨床介入試験で塩化マグネシウムが使われた理由として、吸収・生物学的利用能(Bioavailability: 生物学的利用能とは、飲食物、薬物、サプリメントのマグネシウムのどの位が腸から吸収され、最終的に体の細胞や組織で有効に使われるかを数字で表したものといえます。)が他の市販マグネシウム化合物より高いので使用されました。



執筆者のGuerrero-Romero博士と Rodríguez-Morán博士は2006年の日本で開催された国際マグネシウムシンポジウムにも来られました。なお、参考文献に横田らの論文(Yokota, K et al., Journal of the American College of Nutrition (JACN) 23(5):506S-509S, 2004)が引用されています。



当ホームページでは、塩化マグネシウムの臨床介入試験と疾患について報告してきましたので、以下に纏めました。



2012.01.24  塩化マグネシウム補充による降圧効果の臨床試験



結論: 塩化マグネシウム(MgCl2)の経口マグネシウム補充は、低マグネシウム血症を伴った糖尿病高血圧成人の収縮期(SBP)および拡張期(DBP)の血圧を有意に低下します。



Guerrero-Romero F and Rodríguez-Morán M. The effect of lowering blood pressure by magnesium supplementation in diabetic hypertensive adults with low serum magnesium levels: a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial. Journal of Human Hypertension 23:245-251, 2009



http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19020533



2011.11.17  高齢2型糖尿病患者のうつ治療における経口マグネシウムサプリメントの有効性と安全性: ランダム化、同等性試験



結論: 塩化マグネシウムは、低マグネシウム血症を伴ったうつ病高齢者2型糖尿病治療にイミプラミン(抗うつ薬)毎日50 mgとほぼ同等に有効です。



Barragán-Rodríguez L, Rodríguez-Morán M, Guerrero-Romero F. Efficacy and safety of oral magnesium supplementation in the treatment of depression in the elderly with type 2 diabetes: a randomized, equivalent trial. Magnesium Research 21:218-223, 2008



http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19271419 



2010.02.24  健常ヒト被検者の食後血清脂質反応に対するマグネシウムの影響



結論: 健常ヒト被験者において塩化マグネシウムサプリメントが脂肪吸収を抑制することで食後高脂血症を改善することを示唆しています。



Kishimoto Y, Tani M, Uto-Kondo H, Saita E, Iizuka M, Sone H, Yokota K, Kondo K. Effects of magnesium on postprandial serum lipid responses in healthy human subjects. British Journal of Nutrition 103(4):469-72, 2010



2009.01.19  マグネシウムの脂肪細胞分化に及ぼす影響



 結論: 塩化マグネシウムを高濃度で3T3-L1前駆脂肪細胞に作用させると、分化を促進する可能性、インスリン共存下ではインスリン抵抗性を改善する可能性が示唆された。



岸本良美、近藤(宇都)春美、吉岡絵理、才田恵美、平田悠美子、飯塚麻貴、野本佳世子、田口(柳澤)千惠、貴堂としみ、谷真理子、横田邦信、曽根博仁、近藤和雄: マグネシウム高含有にがりの脂肪細胞分化に及ぼす影響.機能性食品と薬理栄養 4:353, 2007



2007.08.20  メタボリックシンドロームの予防 -その1-



2003年、メキシコMexican Social Security Institute and the Research Group on Diabetes and Chronic Illnessesの研究者らは、“マグネシウムのサプリメント(塩化マグネシウム)は、2型糖尿病のインスリン感受性を改善し、血糖を改善する(無作為二重盲検)”と報告しています。



Rodriguez-Moran M and Guerrero-Romero F, Diabetes Care 26:1147-1152, 2003



2003年、東京慈恵会医科大学の横田らは、軽症の2型糖尿病患者(高血圧、高脂血症などの合併症含む)に天然濃縮塩化マグネシウムを補充するとインスリン抵抗性、高血圧、中性脂肪が大きく改善したことから、マグネシウム補充の臨床的有用性を、国際マグネシウムシンポジウム・2003ケアンズにて発表しました。詳細は、以下の文献と本に報告しています。



Yokota, K et al., Journal of the American College of Nutrition (JACN) 23(5):506S-509S, 2004



http://www.jacn.org/cgi/content/full/23/5/506S 



横田邦信:糖尿病とマグネシウム.Clinical Calcium 15:59-68, 2005、



横田邦信:特集「マグネシウムと動脈硬化」.JJSMgR 25:18-30, 2006、



横田邦信著“メタボリックシンドローム”対策の必須ミネラル「マグネシウム健康読本」 現代書林 2006年9月発行」



横田邦信:2型糖尿病発症-インスリン分泌とインスリン抵抗性へのマグネシウムの関与.分子糖尿病学の進歩-基礎から臨床まで-2006.(門脇 孝、春日雅人、清野 進、渥美義仁・編)、第1版、pp108-116、金原出版、東京、2006



横田邦信:糖尿病とマグネシウムの関係は?『特集|サプリメントと代替医療』.肥満と糖尿病6:1:90-92, 2007、



横田邦信:日本人2型糖尿病発症へのマグネシウム(Mg)の関与.日本臨床栄養学会誌 28:301-306, 2007



2004年、メキシコMedical Research Unit in Clinical Epidemiology of the Mexican Social Security Instituteの研究者らは、“インスリン抵抗性があり低マグネシウム血症症例の非糖尿病へのマグネシウム サプリメント(塩化マグネシウム)によりインスリン抵抗性が改善する(無作為二重盲検)”と報告しています。



Guerrero-Romero F, et al., Diabetes Metab 30:253-258, 2004



マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。




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