マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究

公開日:2013-10-24

マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究



2013年、九州大学医学部、徳島大学医学部、中村学園大学の研究者らは“マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究”に関する報告をしたので、その論文の概要を以下に紹介します。



目的



これまでの研究では、マグネシウム摂取が2型糖尿病のリスクを低下させることが示されましたが、結果は一貫していません。そこで一般的な日本人人口でマグネシウム摂取量と2型糖尿病の発症率の関係を前向きに調査しました。



方法



対象は75gの経口ブドウ糖負荷試験を受けた40-79歳の糖尿病のない1999人の住民で、1988年から平均15.6年間前向きに追跡調査を行いました。



結果



追跡期間中に417人(男性204、女性213人)が2型糖尿病を発症しました。



年齢と性別調整後の2型糖尿病発症率はマグネシウム摂取量の四分位値増量と共に有意に低下しました(Q1≦148.5mg/日、Q2:148.6~171.5mg/日、Q3:171.6~195.5mg/日、Q4≧195.6mg/日、 P = 0.01)。包括的なリスク因子と他の食事要因調整後の多変量解析では、Q1の2型糖尿病発症率のハザード比を1として比較した場合、分位が高くなるにつれてハザード比は減少し、第3四分位値で0.67(95% CI 0.49-0.92; P = 0.01)、最も高い第四分位値で0.63(95% CI 0.44-0.90; P = 0.01)でした。(注釈: マグネシウム摂取量が最も高い群では2型糖尿病の発症リスクが37%低下すると言う意味です)さらに、2型糖尿病のリスクは、多変量調整モデルで対数変換したマグネシウム摂取量1SD上昇ごとで14%低かった(P=0.04)。





層別化解析に於ける2型糖尿病のリスクは、マグネシウム摂取量とインスリン抵抗性(HOMA-IR)レベル、高感度C反応性蛋白(hs-CRP)レベル、アルコール摂取量の間に統計的に有意な相互作用が認められました(P < 0.05)。



この研究集団の特徴を表1に示します。



表 1. 研究集団の特徴(1988年時)および2型糖尿病発症率のハザード比(一部抜粋)



10-136 久山町研究集団特徴



数値は平均(標準偏差)、幾何平均(95% CI)またはパーセンテージで示します。



幾何平均値(95% CI)はHOMA-IR、hs-CRPで示し、そして炭水化物、粗繊維、脂肪酸、多価不飽和脂肪酸とビタミンCの摂取量で示します。



年齢は性別調整、男性頻度は年齢調整しました。



高血圧: 血圧 ≥ 140/90 mmHg か降圧剤使用。



*各食事性変数は回帰残留法を用いたエネルギーを調整しました。                                 



多変量調整: 年齢、性別、糖尿病家族歴、体格指数、HDLコレステロール、トリグリセリド、高血圧、喫煙習慣、アルコール摂取量と定期的運動および総エネルギー、炭水化物、粗繊維、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、ビタミンCの摂取量。                                



HOMA-IR インスリン抵抗性指数、hs-CRP 高感度C反応性蛋白、Mg マグネシウム。



* 表をクリックすると拡大表示します。



結論



マグネシウム摂取量の増加は、一般的な日本人人口で特にインスリン抵抗性、軽度の炎症、飲酒習慣を有する人で2型糖尿病の発症率に有意な防御因子であることを示唆します。



参考資料:



Hata A, Doi Y, Ninomiya T, Mukai N, Hirakawa Y, Hata J, Ozawa M, Uchida K, Shirota T, Kitazono T, Kiyohara Y. Magnesium intake decreases Type 2 diabetes risk through the improvement of insulin resistance and inflammation: the Hisayama Study. Diabet Med. 2013 Jun 12. doi: 10.1111/dme.12250. [Epub ahead of print]



http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/dme.12250/abst... 



コメント



秦先生らは、初めて日本人に於ける久山町研究で前向き調査にて2型糖尿病の発症についてインスリン抵抗性とマグネシウム摂取の相互作用を評価したことに大変意義があると言えます。



久山町研究とは、九州大学大学院医学研究院環境医学分野が1961年来、福岡県久山町(人口約8,400人)で進められている地域住民を集団ベースとした心血管系疾患とその危険因子の前向き疫学研究として世界的に良く知られています。



昨年、第55回日本糖尿病学会年次学術集会(横浜)にて一部の研究データが発表され、当MAG21研究会で取り上げました。



2012.05.29  日経メディカル 第55回日本糖尿病学会ダイジェスト





MAG21研究会のホームページでは、マグネシウムとインスリン抵抗性、糖尿病、高血圧やメタボリックシンドロームとの密接な関係についても解説していますので、ご利用ください。





2013.07.25  マグネシウムは膵β細胞機能を改善してインスリン感受性の変動を補正する: 二重盲検無作為化臨床試験



2013.07.09  インスリン分泌は非糖尿病者の低マグネシウム血症で減少



2013.05.01  奇蹟のマグネシウム



2013.03.28  そばのひ孫と孫(は)優しい子かい? 納得!



2013.02.18  マグネシウムと健康:栄養、医薬品、環境の観点から



2013.02.01  経口マグネシウム補充は非糖尿病者のインスリン抵抗性を低減: 二重盲検プラセボ対照ランダム化試験



2012.12.14  日本人のCa/Mg摂取比率が上昇傾向



2012.11.27  米国における準最適マグネシウムの栄養状況:健康状態が過小評価されている?



2012.08.17  白米摂取と2型糖尿病リスクの関係



2012.05.29  日経メディカル 第55回日本糖尿病学会ダイジェスト



2012.05.22  Ka He先生略歴と講演抄録



2012.02.21  特集:マグネシウムと生活習慣病 日本人の食生活はマグネシウム不足



2012.01.24  塩化マグネシウム補充による降圧効果の臨床試験



2011.11.17  高齢2型糖尿病患者のうつ治療における経口マグネシウムサプリメントの有効性と安全性: ランダム化、同等性試験



2011.09.21  マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスク



2011.06.24  マグネシウムと生活習慣病



2011.02.17  低Mg濃度は糖尿病患者のグリコヘモグロビン(糖化ヘモグロビン:HbA1c)上昇に関連



2011.01.2    マグネシウム摂取とメタボリックシンドロームの関係



2010.12.21  マグネシウム摂取量と全身性炎症、インスリン抵抗性と糖尿病発症との関連



2010.11.26  日本人のマグネシウム摂取と2型糖尿病



2010.09.14  マグネシウム摂取量と全身性炎症、インスリン抵抗性と糖尿病発症との関連



2010.07.08  コーヒー紅茶の摂取で糖尿病リスク低減



2010.02.24  健常ヒト被検者の食後血清脂質反応に対するマグネシウムの影響



2009.12.29  生活習慣病に対するミネラル栄養の重要性 Mg(マグネシウム)



2009.09.08  WHO 飲料水中のカルシウムとマグネシウム: 公衆衛生的意義 2009



2009.05.07  米国成人の食事性マグネシウム摂取量



2009.03.13  糖尿病と合併症 -生活習慣との関わり-



2009.02.10  糖尿病予備群含め2210万人=1年で340万人増 厚労省



2008.08.13  低マグネシウム血症と代謝性グルコース障害リスク: 10年追跡調査研究



2008.06.03  『第51回日本糖尿病学会』で横田先生が発表



2008.02.04  『日本糖尿病療養指導士認定機構 CDEJ News Letter』に横田先生の記事が掲載



2008.01.24  経口マグネシウムサプリメントの影響



2008.01.23  WHO報告書 『飲料水中の栄養素』-その2-



2008.01.22  WHO報告書 『飲料水中の栄養素』-その1-



2007.08.21  メタボリックシンドロームの予防 -その2-



2007.08.20  メタボリックシンドロームの予防 -その1-



なお、糖尿病やメタボリックシンドロームなどとマグネシウム摂取不足との関係は、横田邦信著の“マグネシウム健康読本”(現代書林)にも詳しく書かれていますのでご参考にして下さい。



また、晩秋には、メタボ、糖尿病にマグネシウム食が効く(主婦の友社)が上梓予定ですので、ご期待ください。



マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。


検索


新着記事