日本人の食事からのマグネシウム摂取量と男性における冠動脈疾患リスク: 多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果

公開日:2017-09-19

国立循環器病研究センター、愛媛大学医学部、大阪大学医学部、筑波大学医学部、藤田保健衛生大学医学部、国立がん研究センター、麻布大学生命・環境科学部、順天堂大学医学部、東京大学医学部の研究者らが、“日本人の食事からのマグネシウム摂取量と男性における冠動脈疾患リスク: 多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果”について報告をしたので、その論文概要を紹介します。


背景と目的


食事からのマグネシウム摂取量と脳卒中および冠動脈疾患(CHD)の発症との間には、矛盾があり、アジアでは確立されていません。目的は、日本人における食事からのマグネシウム摂取量と脳卒中と冠動脈疾患(CHD)リスクとの関連を調査することです。


対象者/方法


対象者は、平成7(1995)年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部で(コホートI)および平成10(1998)年に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古で(コホートII)計9保健所管内在住者でベースライン時に心血管疾患または癌に罹っていない日本人85293人(男性(39505人、女性45788人)、年齢45-74歳にアンケート調査を実施しました。


参加者は、2009年および2010年末まで、それぞれコホートIおよびIIとして追跡しました。


食事性マグネシウム摂取量は、自己管理による138項目の食物摂取頻度調査から推計しました。


結果


約15年の追跡期間中に4110人の脳卒中(脳梗塞及び出血性脳卒中)、1283人の冠動脈疾患(CHD)の発症を認めました。


食事性マグネシウム摂取量の男性と女性の最低五分位と比較し、男性における第4および第5五分位の多変量調整後の冠動脈疾患(CHD)ハザード比(HR、95%信頼区間、95%CI)はそれぞれ0.70(0.50-0.99)および0.66(0.44-0.97)、そして女性における第3五分位のハザード比は0.61 (0.39–0.96)でした。


さらに、女性では虚血性心疾患(IHD)と脳卒中を合わせた、全循環器疾患の発症リスクでも、第3五分位、第4五分位、第5五分位で、それぞれ20%、16%、19%低い結果となりました。


高マグネシウム食を摂取した男性または女性の脳卒中発症リスクの低下は認められませんでした。


注釈: 食事からのマグネシウム摂取量を5等分(五分位に振り分け)し、第1分位(一番少ないグループ)のハザード比を基準1.0とし、第5五分位(一番多いグループ)までを比較します。例として、第5分位のハザード比0.66は冠動脈疾患(CHD)リスクが34%低下するという意味です。


結論


食事性マグネシウム摂取量の増加は、日本人男性の冠動脈疾患(CHD)リスクの低下と関連していました。


参考資料:


Kokubo Y, Saito I, Iso H, Yamagishi K, Yatsuya H, Ishihara J, Maruyama K, Inoue M, Sawada N, Tsugane S for the JPHC Study Group. Dietary magnesium intake and risk of incident coronary heart disease in men: A prospective cohort study. Clinical Nutrition, 2017 (in press)


https://doi.org/10.1016/j.clnu.2017.08.006


詳しくは、国立がん研究センターのホームページに掲載の概要版をご覧ください。

http://epi.ncc.go.jp/jphc/777/7962.html


【コメント】


この研究は、多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果として日本人の食事からのマグネシウム摂取量と冠動脈疾患リスクとの関連を平成7(1995)年から約15年間追跡調査し、食事性マグネシウム摂取量の男性と女性の最低五分位と比較し、男性における第5五分位の冠動脈疾患(CHD)ハザード比0.66、そして女性における第3五分位のハザード比0.61が確認されました。また、女性では虚血性心疾患(IHD)と脳卒中を合わせた、全循環器疾患の発症リスクでも、食事からのマグネシウム摂取量が多くなると16~20%低い結果が示されました。この研究は、アジアで初めて欧米以外の地域から食事からのマグネシウム摂取量の増加は、日本人男女の冠動脈疾患(CHD)リスクの低下と関連しているエビデンスが示されたことに意義があります。演題では男性におけるとありますが論文中には男女の成績が述べられています。


多目的コホート研究(JPHC研究)は、日本で最も長期的で大規模な観察型研究の一つとして知られています。日本人でのがん・心筋梗塞・脳卒中など成人病の発症と、食習慣・運動・喫煙・飲酒など生活習慣との関係を調査し、生活習慣の改善により、これら疾病の発症を防ぐことを目的とした「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(多目的コホート研究:JPHC Study)」(主任研究者 津金昌一郎 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)を行っています。多目的コホート研究は、全国11保健所や国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究で実施され、これまでに多数の調査結果を公表しています。http://epi.ncc.go.jp/jphc/ 


1957年に岡山大学の小林純教授が世界で初めて「水の酸性と脳卒中死亡率との相関について」を報告しました。日本各地600以上の河川の酸度・アルカリ度と地域住民の脳卒中の死亡率を調査し、酸性の水(軟水)のある地域では脳卒中での死亡率が高く、アルカリ性の水(硬水)の地域では死亡率が低く、水の硬度が脳卒中の死亡率と逆相関すると報告しました。この報告は大きな反響を呼び欧米で追試が行われました。


Kobayashi J. On geographical relationship between the chemical nature of river water and death-rate from apoplexy. Berichte des ohara institutes fur landwirtschaftliche biologie 11:12-21, 1957


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1960年、米国のシュレーダーは、飲料水の硬度(カルシウム、特にマグネシウムが多い水)と虚血性心疾患の関係を調査し、マグネシウムの多い硬水地域では、心筋梗塞や狭心症による死亡率が低いとの論文を発表しました。Schroeder HA, JAMA. 172:1902-1908, 1960


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1973年、フィンランドのルオーマらの疫学調査では、飲料水のマグネシウム濃度が高くなるほど、循環器疾患の有病率が低下し、濃度が2倍では有病率が3分の1まで低下するとの論文を発表しました。Luoma H, et al. Scand J Clin Lab Invest. 32(3):217-224, 1973


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1978年、Karppanenは虚血性心疾患(狭心症・急性心筋梗塞)と食事中のCa/Mg比の関係を調査し、食事摂取比率が高いほど、虚血性心疾患の死亡率が高いことを報告しました。当時報告されたCa/Mg摂取比率は、一番低い順番からおよそ日本1.2、ユーゴスラビア2.0、イタリア2.2、ギリシャ2.5、オランダ3.2、アメリカ3.2、フィンランド4.0と発表しました。

Karppanen H, et al. Adv Cardiol. 25:9-24. Review, 1978


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10-109 Karppanen図


マグネシウムはカルシウムの蔭に隠れて来た長い歴史があります。わが国の国民一人当たりのカルシウム摂取量は、厚生省(当時)が国民栄養の現状として戦後1946年来毎年調査報告し、厚生労働省が国民健康・栄養調査として2003年来毎年調査報告しています。一方マグネシウム摂取量は、カルシウムの調査報告より55年後の2001年から厚生省が調査報告を開始しました。カルシウムと比較し、マグネシウムはそれほど研究されていない“オーファン栄養素(Orphan nutrient)”です。この為、マグネシウムに関する国の認知が相当遅れたため国民の認知が更に遅れています。


2017.01.23 わが国における糖尿病推定有病率と生活環境の推移(1946年~2015年)


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2016.12.13 平成27年国民のマグネシウム摂取量


マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。


マグネシウム不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患そして悪阻など様々な疾病・病態とも密接に関連しています。


当ホームページでは、以下のサイトで今までにマグネシウムと心血管疾患などとの密接な関連性についても解説してきました。


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マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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