公開日:2016-11-24
食事とサプリメントからのカルシウム摂取量と冠動脈石灰化リスク: アテローム性動脈硬化症(MESA)の多民族研究10年間追跡調査
2016年に米国のノースカロライナ大学チャペルヒル校栄養学科、ワシントン大学疫学科、インディアナ大学疫学・生物統計学科、ウェイクフォレスト大学医学部、エモリー大学ロリンス公衆衛生学部、Washington, DC患者中心アウトカム研究所、Los Angeles Biomedical Research Institute at Harbor-UCLA Medical Center、ジョンスホプキンス大学医学部の研究者らが、“食事とサプリメントからのカルシウム摂取量と冠動脈石灰化リスク: アテローム性動脈硬化症(MESA)の多民族研究10年間追跡調査”について報告をしたので、その論文概要を紹介します。
背景
最近の無作為化されたデータ解析によって、カルシウムサプリメントが心血管疾患(CVD)イベントのリスク増加に関連する可能性があることが示唆されています。縦断的コホート研究で冠動脈石灰化(CAC)の測定により、食物およびサプリメントからのカルシウム摂取量とアテローム性動脈硬化との関連を評価しました。
方法
対象は、アテローム性動脈硬化症の多民族研究から臨床的に診断されたCVD(女性52%、年齢45~84歳)のない5448人の成人について研究しました。
研究開始時の総カルシウム摂取量は、食事(食物頻度アンケートを使用)およびカルシウムサプリメント(投与録)から評価し、五分位数(5つの群)に分類しました。
研究開始時のCACはコンピュータ断層撮影法により測定し、CAC測定は約10年後に2742人の参加者で繰り返しました。
結果
研究開始時、五分位数の平均総カルシウム摂取量(mg/日)はQ1: 313.3 mg、Q2: 540.3 mg、Q3: 783.0 mg、Q4: 1168.9 mg、Q5: 2157.4 mgでした。女性は男性よりも高いカルシウム摂取量でした。
潜在的な交絡因子の調整後、研究開始時にCACのない1567人の参加者中、カルシウム摂取量の五分位数1~5よる10年間におけるCAC発症の相対リスク(RR)は、Q1: 1(基準値)、Q2: 0.95(0.79-1.14)、Q3: 1.02 (0.85-1.23)、Q4: 0.86(0.69-1.05)、Q5: 0.73(0.57-0.93)でした。
注釈: 相対リスク0.73とはリスクが27%低いという意味です。
総カルシウム摂取量の考慮後、カルシウムサプリメントの使用はCAC発症リスクの増加と関連していました(相対リスク = 1.22 [1.07-1.39])。
注釈: 相対リスク1.22とはリスクが22%高いという意味です。
結論
特にサプリメントを使用せずに高い総カルシウム摂取をした場合、長期フォローアップに伴うアテローム性動脈硬化症の発症リスクの低下と関連していました。しかし、カルシウムサプリメントを使用すると、冠動脈石灰化の発症リスクが上昇する可能性があることが判明しました。
参考資料:
Anderson JJ, Kruszka B, Delaney JA, He K, Burke GL, Alonso A, Bild DE, Budoff M, Michos ED. Calcium Intake From Diet and Supplements and the Risk of Coronary Artery Calcification and its Progression Among Older Adults: 10-Year Follow-up of the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA). J Am Heart Assoc. 2016;5(10). pii: e003815.
http://jaha.ahajournals.org/content/5/10/e003815.long
【コメント】
この研究者らの10年間の長期的大規模な疫学調査による食事からのカルシウム摂取量と冠動脈石灰化は逆の関連を示しました。食事性カルシウム摂取量が増加すると冠動脈石灰化が最大27%有意に低下しますが、食品に加えてカルシウムサプリメントの過剰摂取で冠動脈石灰化の発症リスクを22%有意に高くすると報告をしたことに意義があります。
米国で行われた調査により最近、カルシウムサプリメントの多量摂取は命に係わる心血管疾患のリスクを高め健康を害することから「摂取を控えるべきサプリメント」のリストに新たにカルシウムが追加されました。
当ホームページでは以下のサイトで、2013年に米国予防医療サービス委員会が「成人における骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムのサプリメント」について推奨しないとする新しい勧告を公開した内容を掲載しました。
2013.05.15 骨折予防でのビタミンD・カルシウム摂取推奨せず: 米勧告
カルシウムサプリメントあるいはカルシウム製剤については、内分泌専門医の間でも長い間懸念が持たれていました。それは心血管イベントのことではなく、尿路結石や腎機能低下等に関しての懸念でした。カルシウムは「日本人の食事摂取基準」に対し、摂取不足が指摘されているミネラルですが、安全で健康に良いというイメージが強く、積極的にかつ安易に補充されている傾向があります。
カルシウム製剤の添付文書には、昔から既に、“高カルシウム血症、腎結石、重篤な腎不全には禁忌であり、副作用には高カルシウム尿症、高カルシウム血症、腎機能低下、腎結石、便秘、悪心などがある”と記載されています。重要な基本的注意として、「長期投与により血中カルシウムが高値及び尿中カルシウムが高値になることがあるので、長期投与する場合には定期的に血中カルシウム又は尿中カルシウムを検査することが望ましい。また、高カルシウム血症が現れた場合には投与を中止する。」”とあります。しかしながら一般に安易に考えられているのが現実です。
更に以下のサイトで、マグネシウム摂取量は冠動脈石灰化と腹部大動脈石灰化と逆に関連していると報告しています。
2015.08.04 マグネシウム摂取量は冠動脈石灰化と逆関連: フラミンガムハートスタディー
また、カルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)摂取量およびCa/Mg摂取比率の重要性について報告しています。食事から摂るCa/Mg摂取比率が高いほど、虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患死亡率が高く、また2型糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、および他の炎症に関連した疾患の発症率に影響するといわれています。日本では一般的に、カルシウム摂取の重要性と認識が高いので、カルシウムばかり摂る事へのひとつの警鐘と考えられます。カルシウムを意識して摂るのであればマグネシウムはそれ以上に意識して摂る必要があります。
2016.10.26 日本人のカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)摂取量とCa/Mg摂取比率(1946~2014年)
この論文の共著者で4番目の共同研究者はKa He教授(インディアナ大学疫学・生物統計学科 主任教授で臨床栄養疫学研究の世界的権威です)で、今までに何度か来日され日本糖尿病学会(横浜)などで講演されました。
* 図をクリックすると拡大表示します。
Ka He教授は、以前からマグネシウム摂取量が最も多い群では最も少ない群に比べてメタボリックシンドロームになるリスクは31%減少。若い時から十分なマグネシウムの摂取が大切”と報告しています(He K, et al., Circulation 113:1675-1682, 2006)。
MAG21研究会のホームページでは、He教授らの論文などに関しても解説して来ました。
2014.08.13 食事性マグネシウム摂取とメタボリックシンドローム発症リスク: メタ解析
2011.09.21 マグネシウム摂取と2型糖尿病発症リスク
2010.12.21 マグネシウム摂取量と全身性炎症、インスリン抵抗性と糖尿病発症との関連
2007.08.23 女性及び小児とメタボリックシンドロームについて 小児メタボ
2007.08.21 メタボリックシンドロームの予防 -その2-
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。