公開日:2013-05-15
骨折予防でのビタミンD・カルシウム摂取推奨せず: 米勧告
2013年2月、米国予防医療サービス委員会(USPSTF)が「成人における骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムのサプリメント」について推奨しないとする新勧告を公開したので、その論文概要を以下に紹介します。
概要:
米国予防医療サービス委員会(USPSTF)の「成人における骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムのサプリメント」についての新勧告。
方法:
USPSTFは、地域在住成人における骨の健康結果に及ぼすサプリメントの影響、骨の健康結果とビタミンDおよびカルシウム濃度との関連、サプリメントの副作用を評価するためにカルシウムの有無に関わらずビタミンDサプリメントの2つのシステマティックなエビデンスのレビューおよびメタ解析を要請しました。
集団:
これらの推奨事項は、骨折歴のない施設未入居または地域在住無症候性の成人に適用し、骨粗鬆症またはビタミンD欠乏症の患者には適用しません。
(注: 「地域在住」とは、介護施設、老人ホーム或いは他のケア施設環境に居住していない者。)
勧告:
USPSTFは、男性または閉経前女性で骨折予防のために複合ビタミンDとカルシウム・サプリメントの有益性と有害性のバランスの評価には現行のエビデンスでは不十分である。
USPSTFは、施設未入居の閉経後女性に対する骨折予防を目的とした1日400 IU以上のビタミンD3および1000 mg以上のカルシウム・サプリメントは有益性と有害性のバランス評価が現行のエビデンスでは不十分である。
USPSTFは、施設未入居の閉経後女性に対する骨折予防を目的とした1日400 IU以下のビタミンD3および1000 mg以下のカルシウム・サプリメントを推奨する。
図 成人における骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムのサプリメント: 米国予防医療サービス委員会(USPSTF)臨床概要
根拠:
重要
骨折、特に股関節骨折は慢性的な痛み、障害、独立性の喪失、生活の質の低下、死亡率の上昇と関係しています。すべての閉経後女性の2分の1は、生涯骨粗鬆症関連の骨折があります。適切なビタミンDおよびカルシウムの摂取は健康全般にとって不可欠です。
予防療法の有害性
ビタミンD3 400 IU以下とカルシウム 1000 mg以下のサプリメントは腎臓結石の発症率を上昇させるエビデンスが十分示されています。USPSTFは、この有害性の程度は小さいと評価しました。
臨床的検討
潜在的有害性
Women’s Health Initiative(WHI)研究において、統計学的に上昇した腎臓結石の発症率は、ビタミンDとカルシウムのサプリメントを摂っている女性に起きました。7年間の追跡調査期間中にサプリメントを摂取した273人の女性ごとに1人の女性が尿路結石と診断されました。
コスト
ビタミンDとカルシウムのサプリメントは処方箋なしで安価であり、容易に使用可能です。
現行
ビタミンDとカルシウムのサプリメントは、骨折予防のために女性、特に閉経後の女性にしばしば推奨されています。調査では60才以上の女性の56%がビタミンDのサプリメントを摂り、そして、60%がカルシウムを含有しているサプリメントを摂ると推定されています。正確な摂取量は良く知られていません。
他の考慮点
研究ニーズおよびギャップ
ビタミンD3 400 IU超およびカルシウム1000 mg超による毎日のサプリメントが閉経後女性または高齢男性の骨折発症率が低下するかどうかを決定するための研究が必要です。
ビタミンD(例えば、D2対D3)または異なるカルシウム化合物との比較効果が評価されるべきです。
後の生活で骨折発症率に関する青年期におけるビタミンDおよびカルシウム・サプリメントの潜在的有益性を前向き試験で検討するべきです。
白人女性の骨粗鬆症性骨折のリスクが最も高いですが、ビタミンDサプリメントの多様な人種に対する効果を評価するための研究も必要です。
参考文献:
Moyer VA and on behalf of the U.S. Preventive Services Task Force. Vitamin D and Calcium Supplementation to Prevent Fractures in Adults: U.S. Preventive Services Task Force Recommendation Statement. Annals of Internal Medicine 158:691-696, 2013;
doi:10.7326/0003-4819-158-9-201305070-00603
http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf12...
https://annals.org/article.aspx?articleid=1655858
患者用概要:
http://annals.org/article.aspx?articleid=1655861
【コメント】
ビタミンDは腸からカルシウムが吸収されるために必要な微量栄養素です。カルシウムは必須・主要ミネラル7種の内の1つで、身体に不可欠なミネラルです。ビタミンDとカルシウムは骨の健康に重要な働きがあり、医薬品、サプリメントとして長年使われています。
米国予防医療サービス委員会の「成人における骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムのサプリメント」について推奨しないとする新勧告は、リスクとベネフィットの観点からベネフィットのエビデンスが不十分で、腎臓結石、尿路結石の発症率を上昇させるリスクのエビデンスが十分示されている為に警鐘を鳴らしていると思われます。
当委員会の論文では、骨とマグネシウムの関係について触れていません。マグネシウムは骨の構成成分の一つです。硬い骨にはカルシウムが必要ですが、硬くて丈夫な骨にはカルシウムとマグネシウムが必要です。
また、腎臓結石、尿路結石とマグネシウムの関係についても触れていません。腎臓結石、尿路結石の8割は蓚酸カルシウム結石が原因と報告されています。マグネシウムの摂取不足は尿路蓚酸カルシウム結石の発生に深く関わっています。わが国では、酸化マグネシウム製剤(マグミット錠など)が唯一「尿路蓚酸カルシウム結石の発生予防」としての効果・効能が認められている処方薬です。
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