公開日:2010-08-26
Caサプリメントで心筋梗塞リスク31%上昇
2010年7月、ニュージーランドのAuckland大学医学部、Aberdeen大学、米国のDartmouth Medical School医学部の共同研究者らは、カルシウム(Ca)サプリメントの摂取で心筋梗塞リスクが31%上昇するという研究結果を報告しています。
目的:
Caサプリメントが心血管イベントのリスクを上昇させるかどうかを調査することです。
デザイン:
患者レベルおよび試験レベルのメタ解析(過去に発表された論文を解析)
方法:
Medline,Embase,Cochrane Central Register のコントロール試験で1966~2010年発表、平均年齢40歳以上の男女100人以上が参加していて、追跡期間1年以上のカルシウムサプリメント(投与量500mg/日以上)のプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を対象に検索。心血管転帰は、自己レポート、入院歴、および死亡証明書から得ました。
結果:
5試験の患者レベルおよび11試験の試験レベルの分析がメタ解析の対象となりました。
患者レベルでは、カルシウム投与群4097例、プラセボ群4054例(ベースライン時平均年齢73歳、女性78%)で平均3.6年の追跡期間中に心筋梗塞を発症したのはそれぞれ143例、111例で、カルシウム群で有意に心筋梗塞発症率が高かった(ハザード比1.31,95%CI 1.02~1.67, P=0.035)。脳卒中、突然死、死亡については、カルシウム群で多い傾向にあったものの有意差は認められなかった。
試験レベルでは、カルシウム群6116例、プラセボ群5805例(ベースライン時平均年齢72歳、女性83%)で平均4.0年の追跡期間中に心筋梗塞を発症したのはそれぞれ166例、130例でした。患者レベルの解析と同様、カルシウム群で有意に発症率が高かった(相対リスク1.27,95%CI 1.01~1.59, P=0.038)。
結論:
Caサプリメント(ビタミンDの同時投与のない)は、心筋梗塞リスクの上昇と関連しています。カルシウムサプリメントが広く使われ、心疾患リスクの上昇は控えめですが、全体への負担は大きくなるかもしれません。
骨粗しょう症の管理におけるカルシウムサプリメントの役割の再評価が必要かもしれません。
参考資料:
Bolland MJ, Avenell A, Baron JA, Grey A, MacLennan GS, Gamble GD, Reid IR. Effect of calcium supplements on risk of myocardial infarction and cardiovascular events: meta-analysis. British Medical Journal 2010;341:c3691
http://www.bmj.com/cgi/reprint/341/jul29_1/c3691
【コメント】
この研究者らは、カルシウムサプリメントの摂取が心筋梗塞リスクを31%も上昇させることを指摘・報告し、大きなインパクトを与えました。研究者らは、カルシウムによる血管石灰化が原因だと考察しています。
まず、一般の方、特に女性においては骨粗しょう症の予防として日頃からカルシウムを出来るだけ多く摂ることを心がけていると思いますが、カルシウムだけの摂り過ぎは心疾患リスクを上昇させるということです。
次に、医療においては骨粗しょう症の管理にカルシウムサプリメントの役割について再考しなくてはならないかもしれません。多くのカルシウム製剤もありますが、長期投与も心疾患リスクを上昇させるということです。
この研究者らは、以前から健康な閉経後女性でのCaサプリメントの無作為ランダム化試験を5年に渡って骨密度および骨折に及ぼす影響を研究しています。そこで二次的にCaサプリメントが健康な閉経後女性の心血管疾患、脳血管疾患に及ぼす影響を調査して報告しています。この報告内容は当ホームページでもご紹介しました。
日本でも一般的に、カルシウム摂取の重要性と認識が高いので、Caばかりを摂る事へのひとつの警鐘と考えます。この病態にはMgの相対的・絶対的不足も大きく関わっていると考えられます。Caを意識して摂るのであればMgはそれ以上に意識して摂る必要があることはこれまで述べてきた通りです。
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