2008年来酸化マグネシウムのリスク区分第3類据置き

公開日:2022-03-02

2008(平成20)年11月27日厚生労働省は便秘薬として使われる医療用医薬品酸化マグネシウムの副作用報告「便秘薬で副作用15件2人死亡」を発表しましたが、2009(平成21)年11月6日厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会で酸化マグネシウムのリスク区分を現行の第3類のままで了承することを決定しました。

しかしながら、酸化マグネシウムの副作用報告「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュースが記憶に残り、酸化マグネシウムのリスク区分を第3類から第2類に引き上げて規制を強化することがあたかも決められている、と誤った認識を持たれている方が現在でも存在します。

そこで、酸化マグネシウムの副作用報告問題からリスク区分を第3類のままで了承して決着した経緯について当時の正しい情報を年代順に再度提供致します。

2008(平成20)年9月19日、問題の発端はまず厚生労働省医薬食品局安全対策課長名で、便秘薬として頻用されている酸化マグネシウムの副作用報告(3年間に15件の高マグネシウム血症、うち、2例の死亡)を根拠に、酸化マグネシウム製剤の製造販売関連企業に「使用上の注意の改訂指示」を発令し、関連企業は酸化マグネシウム添付文書の改定を直ちに実施しました。

2008(平成20)年11月27日、厚生労働省医薬食品局は、「医薬品・医療機器等安全性情報No.252 1. 酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」を日本マグネシウム学会や関連学会への事前意見聴取などがなされずに、“専門家による検討を行った結果"として発出してマスコミ報道各社に公表しました。マスコミ各社は、酸化マグネシウムの副作用報告「便秘薬で副作用15件2人死亡」による添付文書の改訂を理由に一般用医薬品におけるリスク区分分類を「第3類」から「第2類」へ引き上げ規制を強化するなどと報道しました。この突然の報道発表は、酸化マグネシウムを処方する医療従事者には疑義を、これを服用する患者には多大の不安を与え、医療現場に混乱をもたらしました。
なお、酸化マグネシウムは日本でも長年使われ、1950(昭和25)年からは日本医薬品として70年以上便秘薬、制酸剤として広く使われ、年間約4,500万人に処方されている安全性が確立された医薬品です。

2008(平成20)年12月10日、2009(平成21)年1月27日、「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュース後、MAG21研究会では限られた情報を基に精査・検証した結果を当ホームページでお知らせしました。厚労省が「重大な副作用」として発表した高マグネシウム血症々例の件数や内容に一貫性が無く、しかも死亡2例(1症例目細菌性の敗血症性ショックによる死亡で医薬品医療機器総合機構 医薬品医療機器情報提供ホームページ 副作用が疑われる症例報告に関する情報サイトで“情報不足等により被疑薬と死亡との因果関係が評価できない"と判断され調査対象外とされた症例、2症例目血圧が保てず死亡)とも被疑薬(酸化マグネシウム)と死亡との因果関係が医学的に無いことが判明しました。また、報告された高マグネシウム血症例15症例の特徴は多くは高齢者で急性・慢性を問わず腎不全を13/15症例が合併しており、以前から高マグネシウム血症の副作用は、腎障害の患者で、長期多量に服用した場合には注意する必要があることは既に添付文書で注意喚起されていました。
問題は、被疑薬(酸化マグネシウム)と死亡との因果関係の情報整理が不備でかつ検証が不十分にも拘らず、事実に反し酸化マグネシウムが原因と結論付けて厚労省医薬食品局安全対策課長通知及び「医薬品・医療機器等安全性情報No.252」の発出とニュース報道がなされた点です。リスクがほとんど皆無に近いにも拘わらず、専門家が検討した結果と前置きして「重大な副作用」としてマスコミ報道各社に公表し、多くの医療従事者ならびに患者に不要な不安を煽らせ混乱させました。

2009(平成21)年3月25日、日本マグネシウム学会が酸化マグネシウム副作用報告の取扱い問題に関する学会見解・要望書を舛添厚生労働大臣に提出しました。
日本マグネシウム学会は、この副作用報告の内容の確認および酸化マグネシウム投与と死亡との因果関係をマグネシウム研究の専門的な立場から明確にすべく検証を行いました。
その結果、まず急性・慢性を問わず腎機能障害を認めるものが10/15例を占め、これらを認めないものが5/15例であった。また、死亡した2症例は腎機能障害を有さない症例で、死亡例を除く13例は腎機能障害の有無にかかわらず全て軽快退院の転帰をとった。なお、2009(平成21)年8月6日の安全対策調査会が開催される直前に厚労省が配布した詳細な症例資料によると、実際には腎機能障害を認めるものが13/15例を占め、これらを認めないものが2/15例であり、死亡した2症例は腎機能障害を有する1例と有さない1症例でした。
次に、厚労省が「重大な副作用」として発表した酸化マグネシウム投与による高マグネシウム血症々例の調査期間中の件数【調査対象期間外の3症例が15症例に加えられており、実際の調査対象期間内の症例数は12例(うち2例死亡)が正しいと考えられる】や内容が正確性に欠け、一貫性や整合性が無く、しかも死亡2例とも被疑薬(酸化マグネシウム)投与と死亡との直接的な因果関係が医学的には無い可能性の強いことが判明しました。この為、日本マグネシウム学会としての見解を述べ、関連医学会として日本内科学会、日本透析医学会等からもご賛同を得て、今後の対応についての要望を含めて大臣に提出いたしました。日本マグネシウム学会からの要望書(PDF:914KB)
要望は、以下の4項目が含まれる。
1) 副作用報告は特に死亡例を含めた重篤な副作用症例における重複の有無、また患者の背景、病態、臨床経過など内容の適正、かつ、医学的、専門的、客観的な確認、検証(関連学会との緊密な連携の下での)、討議を実施した上で、透明性の高い情報公開を行い、添付文書を適正に再考すること。
2) 副作用報告の発表と報道内容についてはより慎重な対応が必要であり、今回の誤報道については速やかに訂正をすべきである。また、厚労省医薬食品局「医薬品・医療機器安全性情報No.252」に記載されている「専門家による検討結果」の詳細を提示し、社会に正確な情報を公表すること。
3) 酸化マグネシウムは既に安全性が確立され、食品添加物やサプリメントとしても全世界で広く使われており、従来の如く一般用医薬品のリスク区分分類を本年2009年6月からの改正薬事法にて第3類から第2類へ引き上げて規制を強化する案を早急に撤回すること。
4) 今後、マグネシウムに関する問題が生じた場合は、速やかに日本マグネシウム学会をはじめ関連医学会に照会し、協議・検討する場を設けること。

2009(平成21)年4月22日発行 日刊薬業の記事「厚労省 酸化マグネシウムのリスク区分再検討へ」が掲載された。

2009(平成21)年5月8日薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会において審議された酸化マグネシウム関係の議事録が公開され、以下の内容が決められた。酸化マグネシウムのリスク区分変更で、日本マグネシウム学会から問題点が指摘されたことなどを踏まえ、関係者からの意見を聴取するための新手順を定めた。
1) 諮問を行った後、安全対策部会長の了承を得た上で調査・審議事項の事前整理などを「安全対策調査会」が実施
2) 同調査会での調査・審議に当たっては、必要に応じ関係学会などの有識者らの出席を求めて意見聴取や事前整理を実施
3) 同調査会でリスク区分変更などが必要とされた場合、厚労省は変更案についてパブリックコメントを募集
4) 事前整理やパブコメの結果などについて安全対策部会で調査・審議し、変更の可否について答申を得る
今後、酸化マグネシウムのリスク区分変更については、安全対策調査会において整理を行い、その結果を安全対策部会に報告して審議されるとした。

2009(平成21)年8月6日、平成21年度第2回 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会 安全対策調査会が開催され、一般用医薬品で使用される酸化マグネシウムのリスク区分の変更について審議した結果、当面は現行の「第3類医薬品」のままとすることを了承した。審議結果は、次回開催の薬・食審医薬品等安全対策部会で報告される。
今回の安全対策調査会では、「酸化マグネシウムのリスク区分」について、日本マグネシウム学会から理事長 西沢良記先生、理事 菊池健次郎先生、評議員・酸化マグネシウム副作用検証ワーキンググループ実務担当責任者 横田邦信先生が出席され、それぞれ、問題の経緯、検証結果、考察・結論と見解要望を話されました。
マグネシウム学会から酸化マグネシウムは1950(昭和25)年来、便秘薬・制酸剤などとして、現在では年間約4,500万人に幅広くかつ安全に処方されている薬剤であり、2003(平成15)年には当時の坂口厚生労働大臣が酸化マグネシウムの安全性について諮問され、食品安全委員会が、他のマグネシウム塩と同等の安全性を答申し、既に安全性が再確認された食品添加物でもあり、安全性が確立していることや、マグネシウムの慢性的な摂取不足が2型糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症に密接に関わっていることが近年明らかにされていることなども主張されて理解を得られたことも重要でした。

2009(平成21)年11月6日、厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会が開催され、一般用の制酸・緩下剤である酸化マグネシウムのリスク区分について答申され、当面は現行の第3類のままとすることを了承しました。
8月の調査会で了承された内容と同じで、部会の了承により区分を据え置くことが確定し決着したことになりました。
酸化マグネシウムは、便秘薬として年間約4,500万人に使用されていますが、これまで通り一般薬として医療機関、薬局、ドラッグストア、インターネットなどから求めることが可能となりました。

MAG21研究会は、酸化マグネシウムの副作用報告問題について2008(平成20)年当初からフォローし、以下のサイトで情報を公開してきましたので参照ください。
[2010-03-02] 11/6 厚労省安全対策部会議事録公開
[2010-01-12] 11/6 厚労省安全対策部会 酸化マグネシウムのリスク区分配布資料
[2009-11-21] 11/6 厚労省安全対策部会 酸化マグネシウムのリスク区分第3類のままで了承
[2009-10-02] 8/6 厚労省安全対策調査会議事録公開
[2009-08-14] 厚労省調査会は6日、酸化マグネシウムのリスク区分について審議
[2009-07-21] 5/8 厚労省安全対策部会議事録公開
[2009-06-10] 酸化マグネシウム添付文書見直しを-日本マグネシウム学会が要望書提出
[2009-06-09] 参考文献 -更新-
[2009-05-22] 厚労省 酸化マグネシウムの区分、新手順で再審議へ
[2009-05-21] 参考文献 -更新-
[2009-05-18] 厚労省 酸化マグネシウムのリスク区分再検討へ
[2009-05-16] 参考文献 -更新-
[2009-03-26] 日本マグネシウム学会が学会見解・要望書を厚生労働大臣に提出
[2009-01-27] 「便秘薬で副作用」のニュース -第2弾-
[2008-12-10] 参考文献 -更新-
[2008-12-10] 「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュース

【コメント】
酸化マグネシウムの副作用報告「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュースが記憶に残り、酸化マグネシウムのリスク区分を第3類から第2類に引き上げて規制を強化することがあたかも決められている、と誤った認識を持たれている方が現在でも存在するので、2008(平成20)年~2009(平成21)年当時の副作用報告問題からリスク区分を第3類のままで了承して決着した経緯についての正しい情報を年代順に纏めましたのでご参照ください。

一般的にインパクトのあるニュースの見出し、例えば「酸化マグネシウム、便秘薬、副作用、死亡、など」は記憶に残るものです。
本来、2008(平成20)年11月27日厚生労働省医薬食品局が、「医薬品・医療機器等安全性情報No.252 1. 酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」を“専門家による検討を行った結果"として発出した誤った資料は後に正しい情報を基に改訂して公表すべきでした。しかしながら、当時の医薬食品局安全対策課の担当者は「安全性情報No.252についての改訂に関しては、この文書は新聞記事のような一時的なものであるのと、今までに改訂した事例が無くやるとなったら大変なことになるので、何とかご勘弁をして頂きたい。次回の部会後の報告が出るので、252は埋もれて隠れてしまいます。」と言われて改訂しませんでした。
この様に誤った情報が厚労省から一度発出し、正しい情報に訂正/改訂されずにいると、今回の様に誤った認識を持たれている方が存在することになるので、今後の良き教訓となりました。

なお、重篤な副作用発現を防止するには、高齢者で腎機能障害のある患者さんが、酸化マグネシウムを特に長期間多量に服用している場合には、定期的に血清マグネシウム濃度の測定を勧められています。

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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