「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュース

公開日:2008-12-10

「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュース

「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュースに関し、MAG21研究会では限られた情報を基に調査した結果を以下にお知らせいたします。

【背景】

2008年11月27日ネット配信されたマスコミ主要各社によると、厚生労働省は27日、便秘薬として使われる医療用医薬品「酸化マグネシウム(MgO)」の副作用報告を発表しました。MgOは日本でも長年使われ、昭和25年からは日本医薬品として50年以上便秘薬、制酸剤として広く使われ、年間延べ約 4500万人に処方されている安全性が確立された医薬品ですが、今回の突然の報道発表により医療従事者はもとより患者間にも混乱を生じ様々な問題が引き起こされています。

【目的】

MgOの安全性、特に便秘薬で副作用15件中2人の死亡例と副作用情報の公開内容についての問題点を検証することを目的とします。

【方法】

MgOの副作用報告に関し、厚生労働省から発表された内容について調査しました。

【結果】

1 厚生労働省が「重大な副作用」として発表した高マグネシウム血症と死亡例の症例数と内容が不一致でした。

  1) 平成20年9月19日 厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知として関係企業に対し、使用上の注意の改訂指示が行われました。この通知を基に2008年9月、酸化マグネシウム製剤 製造販売会社の名前で、「酸化マグネシウム製剤における高マグネシウム血症について」が発表されました。この文書によると、“酸化マグネシウム製剤による高マグネシウム血症に関しては、これまで「使用上の注意」の「副作用」の項等に記載しておりましたが、国内において、重篤な高マグネシウム血症が25例報告※(そのうち死亡例4例)されております。”と記載されていますが、「症例概要」には死亡例4例のうち以下の1例しか提示されていません。

[症例概要] 

報告された症例のうち主な症例概要を以下に示します。 

症例1 

10-030 092008MgO症例

 2) 平成20年11月27日 厚生労働省医薬食品局 「医薬品・医療機器等安全性情報」No.252によると“平成17年4月から平成20年8月までに報告された酸化マグネシウムの服用と因果関係が否定できない高マグネシウム血症15例(うち死亡2例)について” と記載されていますが、「症例概要」には死亡例2例のうち以下の1例(上記の2008年9月付の症例1と同一)しか提示されていません。

症例の概要

No.1

10-031 11272008MgO症例

3) 医薬品医療機器総合機構 医薬品医療機器情報提供ホームページ 副作用が疑われる症例報告に関する情報サイトには症例一覧が掲載されています。

http://www.info.pmda.go.jp/fsearchnew/jsp/...

この症例一覧の報告年度には2004~2008年で計38例が掲載され、高マグネシウム血症15例(うち死亡5例)が提示されています。死亡5例について上記の死亡例を照合すると、以下の1例しか該当しません。しかしながら(注)事項をみると“情報不足等により被疑薬と死亡との因果関係が評価できないもの”と明記され、因果関係が評価できないにも拘らず上記の副作用の死亡症例に「主な症例概要」として提示されています。

10-032 PMDA MgO症例

2 副作用情報の公開は、「重大な副作用」としての死亡例が2008年9月と平成20年11月27日の書面で同一の1例しか提示されていません。しかし、医薬品医療機器総合機構のホームページでは5例の死亡症例が提示されています。

3 MgO副作用の調査対象期間は平成17年4月から平成20年8月までの3年4ヶ月間で、推定使用者数は延べ15000万人、このうち死亡2例とすると確率は0.000001333%となります。これ程低い確率にも拘らず「重大な副作用」として発表しています。更に、この安全で50年以上使用されている薬のリスクとベネフィットを考慮すると、リスクは疑わしい死亡率があるとした場合0.000001333%、ベネフィットは年間 4500万人が便秘薬や制酸剤として使用し助かっている事であることからベネフィットの方が遥かに上回ります。

【考察】

今回発表されたMgOの副作用報告に関し、限られた資料と情報を基に調査した結果、死亡症例の内容に一貫性が無いことが判明しました。公表された死亡症例は、MgOと死亡との因果関係が評価できないものであるにも拘らず、症例の根拠として取り扱われたと思われます。また、死亡症例(症例概要症例1および症例の概要No1:同一症例)の直接的死因は臨床経過から細菌性の敗血症性ショックと考えられます。以上の結果からMgOの服用症例ではありますが、MgOによる死亡例とすることは適切さに欠けると言えます。

【総括】

MgOは1g中に約600mgのMgを含みます。一般に0.1gから3ないし4gを症状に応じて処方します。腎機能が正常であれば高マグネシウム血症を来すことはありませんが、慢性腎不全があり、MgOを大量にしかも長期に渡り服用した場合には高マグネシウム血症を来すことは既に知られています。高マグネシウム血症が診断される際にしばしば見られる症状として、食思不振、嘔気、見当識障害、傾眠、意識レベル低下、深部腱反射低下等があります。また、周産期や不整脈などの循環管理の際には、血中Mg濃度を4~8mg/dl程度に維持することが行われ、この濃度のレベルの高Mg血症がショックや死亡の原因となることはありません。

2007年に高マグネシウム血症の副作用の報告が多く見受けられたのは、高マグネシウム血症が意識障害で見つかった慢性腎不全症例の報告を受けて血中Mg濃度を測るケースが増えたためと思われます。

副作用情報の公開、特に全死亡症例の情報開示は重要ですが一貫性が無く、ガラス張りの情報公開が求められます。更に、MgOの副作用に関して、関連医学会に照会し十分な議論がなされていない点も問題と言えます。

「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュースに関しては、MgOの服用があたかも原因であるかのような誤解を生む報道内容であったため、医療従事者からは多くの疑問の声が上がり、さらには患者さんに不要な不安を煽り立て混乱を招く結果になりました。従ってこのような副作用報告の発表は慎重な対応が望まれます。

また、MgOは日本では50年以上も広く使用され年間4500万人に処方され安全性が確立され、食品添加物としても全世界で使われているにも拘らず、今回を機に薬物の危険度分類を一番低い3類から2類へ引き上げることも決定したことは科学的にも妥当な判断とは言えません。

参考資料

1. 2008年9月 酸化マグネシウム製剤 製造販売会社 「酸化マグネシウム製剤における高マグネシウム血症について」 

  * [使用上の注意(主な改定箇所:下線部、平成20年9月19日付 厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知)] 、[症例概要]が含む

http://www.mochida.co.jp/dis/tekisei/mag2009.pdf

2. 平成20年11月27日 厚生労働省医薬食品局 「医薬品・医療機器等安全性情報」 No.252 「1.酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」

http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/... 

或いは

http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/file/... 

3. 医薬品医療機器総合機構 医薬品医療機器情報提供ホームページ 副作用が疑われる症例報告に関する情報サイト (アクセス日: 2008年12月04日)

http://www.info.pmda.go.jp/fsearchnew/jsp/...

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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