「便秘薬で副作用」のニュース -第2弾-

公開日:2009-01-27

「便秘薬で副作用」のニュース -第2弾-

2008年11月27日付「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュースに関し、MAG21研究会では限られた情報を基に調査した結果を当ホームページ 2008.12.10 「便秘薬で副作用15件2人死亡」のニュース でお知らせいたしました。

引き続き今回は第2弾として、厚労省医薬食品局「医薬品・医療機器等安全性情報No.252 1.酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」[平成20年11月:参考資料1]に記載されている「平成17年4月から平成20年8月までに報告された酸化マグネシウムの服用と因果関係が否定できない高マグネシウム血症15例(うち死亡2例)について」の内容を基に精査・検証した結果をお知らせいたします。

まず、精査結果として、厚労省が「重大な副作用」として発表した高マグネシウム血症々例の件数や内容に一貫性が無く、しかも死亡2例とも被疑薬(MgO)と死亡との因果関係が医学的に無いことが判明しました。

問題は、被疑薬(MgO)と死亡との因果関係の情報整理が不備でかつ検証が不十分にも拘らず、事実に反しMgOが原因と結論付けて厚労省医薬食品局安全対策課長通知及び「医薬品・医療機器等安全性情報No.252」の発出とニュース報道がなされた点です。リスクがほとんど皆無に近いにも拘わらず、専門家が検討した結果と前置きして「重大な副作用」として公表し、多くの医療従事者ならびに患者に不要な不安を煽らせ混乱させました。

詳細は以下の通りです。

Table 1に MgO製剤による「高Mg血症」が疑われる15症例(うち死亡2例)を纏めました。

10-036 Table1 MgO1-6

10-036 Table1 MgO7-11

10-036 Table1 MgO12-15

1) 症例の概要は男性7例、女性8例で、基礎疾患には以下のFig1に示すごとく慢性の腎障害を有するもの(7例)、また認知症、統合失調症など精神疾患、脳梗塞後遺症などの合併症を有する高齢者(n=15、中央値年齢 71歳)が多く見受けられた。

死亡例は甲状腺機能亢進症、認知症を基礎疾患に有する便秘症の86歳の女性(症例9)と統合失調症、認知症を基礎疾患に有する便秘症の78歳男性(症例13)の2例であった。また、併用被疑薬があるものは症例7、11、15の3症例のみであった。

2) Fig.1に高Mg血症例の腎(機能)障害の有無および転帰についてのフローチャートを示す。

10-037 Fig1 MgO内訳フローチャート

急性・慢性を問わず腎障害を認めるものが全体の2/3を占め、認めないものが1/3であった。また、死亡した症例9と13の2例は腎障害を有さない症例で、死亡例を除く13例は腎障害の有無にかかわらず全て軽快退院の転帰であった。

腎障害を有さない5例の臨床的特徴として、症例7は併用被疑薬に炭酸リチウムがあった。症例8と9(死亡例)は腸管壊死を認めた。症例10では高度の便秘を認めた。また症例13(死亡例)では著明な腹部膨満(腸管拡張)を認めた。

3) Table2(文献1))に厚労省医薬食品局「医薬品・医療機器等安全性情報No.252 1.酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」に記載されている「平成17年4月から平成20年8月までに報告された酸化マグネシウムの服用と因果関係が否定できない高マグネシウム血症15例(うち死亡2例)について」に関する文献一覧を示す。文献一覧の文献No3の2症例と文献No12の1例以外は全て学会の症例報告(抄録)であるが、対象期間外の3症例:2000年(1例)、2004年(2例)の報告例が含まれていた。

更に、文献No3「高マグネシウム血症により意識障害をきたした慢性腎不全の2例 中司敦子ほか:日本透析医学会雑誌. 2004; 37(2): 163-168.」は、77歳男性と78歳女性2例についての論文報告であるが、高マグネシウム血症15例には77歳男性のみの症例しか含まれていなかった。

10-038 Table2 MgO文献一覧

【考察】

高Mg血症は一般に多くが医原性であり、基礎疾患に腎機能障害を有する症例にMgOなどのMg製剤を大量かつ長期に処方した場合に、食思不振、嘔気、意識障害(意識レベル低下、傾眠、見当識障害)などで見つかる例が多いことは、最近の報告(文献1)の症例報告一覧)を含め既に古くから知られており、添付文書でも以前から注意が喚起されている。

また、腎機能障害が無い例でも高Mg血症が起こり得るが、その場合は基礎疾患あるいは病態に腸管壊死・虚血性腸炎などの消化管病変や高度な便秘による腸管拡張など腸管バリア機能の破綻をきたす因子が存在すると、それらが高Mg血症の増悪因子となる。

便秘に対しては通常1~2g程度を、また重症では3g以上のMgOを投与することがある。MgOの1g中には約600㎎のMgが含有することから高度な便貯留では高Mg血症の増悪因子となり得る。高Mg血症の診断は基準値(キシリジルブルー法:1.8~2.6mg/dl)の上限以上の場合に診断されるが、5㎎/dl以下では症状に乏しいことが多く、それ以上に及ぶ場合に徐々に症状が現われる。その際の臨床症状としては食思不振、嘔気、嘔吐、見当識障害、傾眠、筋力低下等がみられ、血清Mg濃度がさらに高値になるにつれて意識レベル低下、深部腱反射低下・消失、血圧低下、徐脈、心電図異常等が見られる(文献2))。

また、臨床現場では、周産期や不整脈などの循環管理の際に血中Mg濃度を4~8mg/dl程度に維持することがしばしば行われることから、この程度のレベルの高Mg血症が死亡の原因となることはない(文献3))。

死亡症例の考察:

まず調査対象期間外の症例1および症例2と3も15症例に加えられており、実際の調査期間内の症例数は12例(うち2例死亡)が正しいと考えられる。また、文献No3「高マグネシウム血症により意識障害をきたした慢性腎不全の2例 中司敦子ほか:日本透析医学会雑誌. 2004; 37(2): 163-168.」は、2症例についての論文報告であるが、何故高マグネシウム血症15例には1症例しか含めていなのかは疑問で不明であることから一貫性が無いといえる。

さて、死亡例の症例(Table 1の症例9)は、カルシウム負荷で一時的に血圧は上昇し血液透析でMg濃度も低下したもののカテコラミン不応性のショック状態が遅延している。これは腸管壊死(疑い)があり、膿性腹水(bacteria検出)も確認された敗血症の診断がなされていることから細菌性の敗血症性ショックによる死亡であると考えるのが臨床医の見解である。また、高Mg血症の診断(文献2))は基準値以上の場合に診断されるが、症例5,6,7,8,10,14に見られるような高濃度(11から18.5mg/dl)でも適切な処置で全て回復しているように、この程度の高Mg血症の直接的な死亡との因果関係は薄いといえる。しかも本症例は、機構のホームページ(参考資料2)の1組の重複症例であり、結果2の2)の表に示したごとく、注事項には“情報不足等により被疑薬と死亡との因果関係は評価ができない”と結論付けられた症例であるにも拘わらず今回死亡例としてカウントし提示(参考資料1および2)されたことは極めて不適切であり、この症例をもってMgOの副作用による死亡例と読者が誤解する内容で報道されたことも極めて遺憾で問題である。

次に、対象となった2症例目(症例13:78歳男性。但し症例提示は全くされていない。)の死亡例も、1例目と同様に腎機能障害のない症例であるが、臨床経過から輸液・Ca製剤投与により血中Mg濃度は12.8mg/dlまで順調に低下していたが血圧が保てず翌日死亡した症例で、高Mg血症以外に、高齢であることに加え、何らかの種々の要因と病態が重なりカテコラミンに反応しないショック状況があっての死亡、なお、本例は著明な腹部膨満(腸管拡張)があったことから慢性便秘に対して投与されたMgO(但し量が不明であるが投与期間が長期)が多量の便の貯留に伴い蓄積して腸管バリアを破壊し高Mg血症を増悪させた可能性があるが、被疑薬と死亡との直接的因果関係は薄いと医学的に考えられる。 

報告された高Mg血症例15症例の特徴は多くは高齢者で急性・慢性を問わず腎不全を2/3(10例)が合併し、さらに症状も意識レベルの低下が10例に認められている。また、高度の腸管拡張や腸管壊死、虚血性腸炎など腸管バリア機能が低下した症例が腎機能障害のない5例中の死亡2例に認められ、MgOが原因であるというよりは、高Mg血症を来し得る基礎疾患(腎障害)ないしは病態(増悪因子)が存在する症例である。なお、併用薬(併用被疑薬)のある症例が高齢者であるにも拘わらず3例しかない点は確認する必要があるかもしれない。

医原性の高Mg血症はMg製剤を長期多量服用時に、腎障害がある場合でも急速な上昇は示さず徐々に上昇するが、認知症や意識障害など意識レベルの判定が容易でない症例でなければ、ある程度以上の血清Mg濃度レベル以上になると高Mg血症を疑わせる食思不振、嘔気、意識レベル低下、深部腱反射低下・消失等の症状が出ることで疑うことが十分可能である。

従って改訂された添付文書については、意識障害を意識レベル低下に変更し、初期症状に発現する症状のひとつに意識レベル低下を入れることがより望ましいといえる。また、重大な副作用の高Mg血症の項に不整脈が記載されているが漠然としており削除が望ましい。

腎不全患者ではMgOの多量服用は高Mg血症を来す。このことは、腎不全患者が果物・海藻などカリウム(K)を多く含む食物を多量に摂取した場合に高K血症になる機序と類似の病態であるが、高K血症ではわずかな上昇でも即不整脈(心室細動)死につながる恐れがあり、高Mg血症とは比較にならないほど重篤な病態であるが強調されていない。高Mg血症の副作用は、腎障害の患者で、大量に長期に服用した場合には注意する必要があることは既に知られており、敢えて、“重篤な副作用”とするには及ばない。

今回の問題を検証した結果、確率論からみてもMgOを服用しなかったことによる糞便イレウスや高度の便秘による消化管穿孔による死亡率のほうが明らかに高い。副作用の調査対象期間は平成17年4月から平成20年8月までの3年4ヶ月間であった。この間のMgOの推定投与患者数は延べ1億5000万人で、このうち死亡2例とすると推定確率は0.0000013%となる。さらに、長年使用されているこの安全な薬のリスクとベネフィットを考慮すると、リスクの推定確率は0.0000013%、ベネフィットはほぼ1億5000万人(年間延べ約4500万人)が便秘薬や制酸剤として投与され恩恵に与っている事からベネフィットの方が遥かに上回る。このように服用による死亡リスクは極めて低く、ベネフィットが死亡リスクを遙かに上回ることも明らかである。逆に死亡リスクからみてもむしろ極めて安全性が高いことが証明されたとも言えよう。

厚労省は日本医薬品として1950年来極めて安全を確立させたMgO製剤を認めて多くの患者に寄与し、極めて多くの国民が健康と安全を担う医薬品行政の恩恵に与っている。

最後に、機構の医薬品医療機器情報提供ホームページ 副作用が疑われる症例報告に関する情報サイトの公開は有用であるが、2つの問題がある。まず、第一点は、死亡との因果関係が無いにも拘らず死亡として取り扱ったこと。第二点は、高Mg血症と死亡例の重複が散見し照合するにも非常に困難であった。この為、読者には恰も多くの高マグネシウム血症と死亡例があるとの誤解を与える。これらの問題を解決するには、副作用報告があるとそのまま掲載するのではなく正しく確認し整理・検証した上で事実を掲載すべきである。 

文献

1) 高Mg血症15症例に関する文献一覧

10-035 参考文献一覧

2) マグネシウム 成人病との関連 糸川嘉則・齊藤 曻著 光生館 1995年 

10-039 Mg濃度と症状

3) 粕田晴之 麻酔・周産期とマグネシウム.治療.1993;Vol 75(3):113-119.

参考資料

1. 厚生労働省医薬食品局 「医薬品・医療機器等安全性情報」 No.252 「1.酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」 平成20年(2008年)11月

http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/... 

或いは

http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/file/... 

2. 医薬品医療機器総合機構 医薬品医療機器情報提供ホームページ 副作用が疑われる症例報告に関する情報サイト (アクセス日: 2008年12月04日)    

http://www.info.pmda.go.jp/fsearchnew/jsp/...

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