公開日:2009-01-07
カルマグ摂取比と大腸がん
2007年、米国Vanderbilt大学医学部などの共同研究者らは、マグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)摂取およびMgトランスポーターの遺伝子多型と結腸直腸新生物(がん)リスクとの関連についての研究結果を報告しました。
Ca:Mg(カル:マグ)摂取比と大腸がん(結腸・直腸・肛門がん)リスクが関係する興味ある研究結果なので、以下に論文内容をご紹介いたします。
【背景】
米国人の平均Mg摂取量は、大腸がんと他の慢性疾患リスクが伝統的に低い東アジア人と異なりませんが、Ca:Mg摂取比率は米国人の方がより高いです。Transient receptor potential melastatin 7 (TRPM7)は、新しく見つかった遺伝子でMgの吸収とホメオスタシスにきわめて重要な働きがあります。
【目的】
Ca、Mg或いは両方の摂取量とTRPM7遺伝子のThr1482Ile多型による大腸ポリープの関連がCa:Mg摂取比によって変化するかが研究の目的です。
【デザイン】
Tennessee結腸直腸ポリープ研究から合計688腺腫症例、210過形成ポリープ症例と1306ポリープ無し症例(コントロール)が本研究の対象です。
【結果】
総Mg消費量、特にCa:Mg摂取比の低い者が大腸腺腫の有意に低いリスクと関連があることが判明しました。過形成ポリープでは逆の関連した傾向が見られました。
また、一般的なThr1482Ile多型は腺腫と過形成ポリープ両方のリスク上昇と関係していた。
さらに、この多型は、腺腫症と過形成ポリープの両方に関してCa:Mg摂取比と有意に相互作用していました。
1つ以上の1482Ile 対立遺伝子の保因者、そしてCa:Mg摂取比の高い食事の被験者は、多型の保因者でない者より腺腫(オッズ比: 1.60; 95% CI: 1.12, 2.29)と過形成ポリープ(オッズ比: 1.85; 95% CI: 1.09, 3.14)のリスクが高かった。
【結論】
これらの所見は、Mg不足と大腸がんの個人的予防としての新しい道を開く可能性があります。
この論文の抄録外から興味ある部分の内容を以下に列記致します。
米国全国健康・栄養調査[National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES)] 1990-2000では、米国成人の79%がMgの推奨量を満たしていない。
過去の報告によるCa:Mg摂取比は、米国人口2.8で東アジア人口1.6より遥かに高い。
引用文献(文献中の番号をそのまま引用しています):
11. Ervin RB, Wang CY, Wright JD, Kennedy-Stephenson J. Dietary intake of selected minerals for the United States population: 1999–2000. Adv Data 2004;1–5.
14. Cai H, Shu XO, Hebert JR, et al. Variation in nutrient intakes among women in Shanghai, China. Eur J Clin Nutr 2004;58:1604 –11.
15. Cai H, Yang G, Xiang YB, et al. Sources of variation in nutrient intakes among men in Shanghai, China. Public Health Nutr 2005;8:1293–9.
16. Seelig MS. The requirement of magnesium by the normal adult: summary and analysis of published data. Am J Clin Nutr 1964;14:342–90.
最近の研究で、TRPM7遺伝子が同定され、その発現するたんぱくの変異Thr1482Ile(注: 1865のアミノ酸配列からなるイオンチャネルやキナーゼとして機能し細胞内Mgホメオスタシスに必要であると提唱されているレセプター(受容体)で、1482番目のアミノ酸のスレオニンがイソロイシンに置き換わった変異)がMg不足と関連している。
引用文献(文献中の番号をそのまま引用しています):
23. Schmitz C, Perraud AL, Johnson CO, et al. Regulation of vertebrate cellular Mg2+ homeostasis by TRPM7. Cell 2003;114:191–200.
24. Hermosura MC, Nayakanti H, Dorovkov MV, et al. A TRPM7 variant shows altered sensitivity to magnesium that may contribute to the pathogenesis of two Guamanian neurodegenerative disorders. Proc Natl Acad Sci U S A 2005;102:11510–5.
この研究の調査で1番単独でMg摂取に貢献しているのはMgサプリメント(51.1mg/日、1日の総平均摂取量の16.3%に相当)。他に貢献したのは、ふすま又は高繊維穀類(20.6mg)、ピーナッツと他のナッツ(16.3mg)、カフェイン含有コーヒー(16.2mg)、黒っぽいか全粒のパン(15.5mg)、低脂肪乳(10.0mg)、オートミール、小麦クリームと他の穀類(8.4mg)、100%のオレンジジュースまたはグレープフルーツジュース(8.3mg)、そして、脱脂乳とバターミルク(8.1mg)であった。
Thr1482Ile変異と大腸がんとの関連については、アフリカ系米国人はその遺伝子多型を持たない為、非アフリカ系米国人のみについて調査。
1482Ile変異は、有意差はボーダーラインであったが、大腸腺腫のリスクを20%上昇することが判明した。
総Mg摂取量は、男女とも過形成ポリープと腺腫のリスク低下と特に低いCa:Mg摂取比と高いビタミンD摂取に関係していた。Ca摂取は、特にCa:Mg摂取比が高い場合、有意にリスクと関連していた。
Mgは、大腸癌の発癌を早期から保護する可能性がある!
参考文献:
Dai Q, Shrubsole MJ, Ness RM, Schlundt D, Cai Q, Smalley WE, Li M, Shyr Y, and Zheng W. The relation of magnesium and calcium intakes and a genetic polymorphism in the magnesium transporter to colorectal neoplasia risk. Am J Clin Nutr 86:743–51, 2007
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/86/3/743.pdf
【MAG21研究会コメント】
食事からのCa:Mg摂取比と大腸がんのリスクとの関係が明らかにされたのは大変興味があります。
日本に於けるCa:Mg摂取比に関しては、MAG21研究会のホームページでも取り上げて来ました(2007.08.23マグネシウムとカルシウム摂取量の割合が重要ですか?、 2008.03.26 Ca摂取が心血管疾患に悪影響か など)。日本人のCa:Mg摂取比は30年位前まではおよそ1.2でしたが、最近の調査では1.97と大きく上昇しています。平成18年 国民健康・栄養調査結果によると、例えば男女30~39歳のCa:Mg摂取量と比率を見ると、男性では485mg:252mgと1.92、女性では476mg:218mgと2.18になり時代と共に摂取比が更に上昇し、米国の摂取比2.8に近づく傾向があります。私達日本人のCa:Mg摂取比の上昇は、心血管疾患、大腸がんなどのリスクが高くなる可能性があります。
食事からのCa:Mg摂取比を出来るだけ30年前の1.2まで低下させる努力が大腸がんなどのリスクを下げる、即ち予防にも繋がる事が理解して頂けたと思います。
この事は、毎日の食生活において、Caを意識して摂られていると思われますが、Mgをそれ以上に意識して摂られることが必要で、今までにも述べて来たとおりです。
また、食材からのMg摂取がなかなか難しい場合、天然濃縮Mgリキッド(塩化Mgが多量でナトリウムとカルシウムが極力少ない)なども補給源としてご利用されるのも良いでしょう。
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。