公開日:2019-02-01
わが国における糖尿病推定有病率と生活環境の推移のデータを昭和21(1946)年~平成29(2017)年まで更新しました。
今回、「平成29年「国民健康・栄養調査」の結果」 2018(平成30)年9月11日厚生労働省健康局健康課栄養指導室栄養調査係 報道発表資料から昭和21(1946)年~平成29(2017)年男女総数1人1日あたり平均値の穀物摂取量(大麦・雑穀等)、エネルギー摂取量、脂肪摂取量を含むわが国の財産とも言える戦後71年間のデータをまとめました。なお、昭和21(1946)年~昭和25(1950)年の穀物摂取量(大麦・雑穀等)は、当時の都市・農村それぞれの平均値を合算して全国平均値として算出しました。昭和26(1951)年以降は、一人一日当りの全国平均値を引用しています。
穀物摂取量(大麦・雑穀等)のデータは、1946~1970年頃まで1日平均およそ90から3 gまで激減し、以後から2015年までは2 g 前後の傾向、2017年は2.7 gとなっています。
平均エネルギー摂取量のデータは、1946~1971年まで1日平均およそ1,903からピークの2,287 kcalまで上昇しましたが、以後から2017年は1,897 kcalまで減少し、1946年時よりも低い傾向となっています。
脂肪摂取量のデータは、1946~1983年頃まで1日平均およそ14.7から58.6 gまで上昇し、1984~2000年頃まで58から57 gの横ばいで、以後から2008年は52 g まで減少し、2017年は59 gまで上昇傾向となっています。
「平成28年「国民健康・栄養調査」の結果」 平成29(2017)年9月21日厚生労働省健康局健康課栄養指導室栄養調査係 報道発表資料によると、糖尿病実態調査では平成28(2016)年、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は12.1%であり、男女別にみると男性16.3%、女性9.3%であり、平成24(2012)年と比べて男女とも増加しています。「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12.1%であり、男女別にみると男性12.2%、女性12.1%であり、平成24(2012)年と比べて男性は変わらず、女性は減少しています。
今回、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,000万人と推計され、平成9(1997)年以降増加しています。「糖尿病の可能性を否定できない者」は約1,000万人と推計され、「糖尿病が強く疑われる者」と「糖尿病の可能性を否定できない者」を合わせると約2,000万人であり、平成9(1997)年から平成19(2007)年まで増加して以降減少に転じています。前回調査平成24(2012)年より、糖尿病が強く疑われる者(有病者)は50万人の増加、糖尿病の可能性を否定できない者(予備軍)は100万人の減少で計50万人の減少でした。糖尿病の予防には「エネルギー(カロリー)の制限と運動が重要であることが定説となっていることから食事や運動を意識する人が増えた可能性があります。
調査開始時から比較すると、1997年1370万人、2002年1620万人、2006年1870万人、2007年2210万人、2012年2050万人、そして今回2016年2000万人となり、19年間でおよそ630万人(46%)の激増でした。
なお、糖尿病推定有病者数の基準は、以下の表にまとめています。「糖尿病が強く疑われる者」とは、ヘモグロビン A1c の測定値がある者のうち、ヘモグロビン A1c(NGSP)値が 6.5%以上(平成9~19(1997-2007)年まではヘモグロビン A1c(JDS)値が 6.1%以上)、又は「糖尿病治療の有無」に「有」と回答した者とされています。「糖尿病の可能性を否定できない者」とは、ヘモグロビンA1cの測定値がある者のうち、ヘモグロビンA1c値が6.0%以上、6.5% 未満(平成9~19(1997-2007)年まではヘモグロビン A1c(JDS)値が 5.6%以上、6.1%未満)で、「糖尿病が強く疑われる者」以外の者とされています。
*注釈: ヘモグロビンA1c (HbA1c)の表記について、JDSは日本仕様値、NGSP値は国際標準化値です。
糖尿病推定有病率〔昭和24(1949)年から昭和60(1985)年〕はGoto Y. Tohoku Journal of Experimental Medicine(1983)から引用しています。糖尿病推定有病率〔平成9(1997)年、平成14(2002)年、平成18(2006)年、平成19(2007)年、平成24(2012)年、平成28(2016)年〕は、厚生労働省が糖尿病実態調査報告されている「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数をそれぞれ総務省統計局「人口推計 総人口男女20歳以上(当該年の10月1日現在)」の性・年齢階級別の全国人口を基に算出しています。
糖尿病推定有病率は、「糖尿病が強く疑われる人」で調査開始時の平成9(1997)年7.0%から平成28(2016)年9.5%まで上昇し、「糖尿病の可能性を否定できない人」で調査開始時の平成9(1997)年6.9%から平成19(2007)年12.7%まで上昇して以降平成28(2016)年9.5%まで減少し、「糖尿病が強く疑われる人+可能性を否定できない人合計」で調査開始時の平成9(1997)年13.9%から平成19(2007)年21.2%まで上昇して以降平成28(2016)年19.0%まで減少しています。
出典
エネルギー、脂肪、大麦・雑穀等は厚生労働省 「国民健康・栄養調査」[昭和21(1946)年~平成29(2017)年]から引用作図
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
糖尿病推定有病率はGoto Y. Tohoku Journal of Experimental Medicine(1983)および厚生労働省の糖尿病実態調査報告(1997、2002、2006、2007、2012、2016)から引用作図
総務省統計局「人口推計 総人口男女20歳以上(当該年の10月1日現在)」の性・年齢階級別の全国人口
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2016np/index.htm
なぜわが国の2型糖尿病が戦後激増したのでしょうか?
わが国の糖尿病有病率は戦後激増し、現在もその傾向は続いています。なぜでしょう?そのヒントになるのが以下です。
すなわち穀物(特にマグネシウムが豊富な大麦・雑穀等)の摂取量が激減した時点と糖尿病が増え始めた1960年代の時点が一致することが注目されます(上の図「わが国における糖尿病推定有病率と生活環境の推移」を参照)。糖尿病の発症要因は脂肪摂取量の増加と運動不足による肥満などが定説です。しかしマグネシウム摂取量が少ない群からの糖尿病発症が有意に多いという報告(1~3)や、マグネシウム摂取量が多いと糖尿病発症リスクが10~20%(3)、47%(4)、日本の大規模コホート研究では36~43%(5)、わが国の地域住民の全体では37%(6)、地域住民の女性では50%(7)それぞれ減るという報告などから、マグネシウム摂取不足が糖尿病発症と深く関連することが明らかになりました。さらに、マグネシウム摂取量が100㎎/日増加する毎に糖尿病の発症リスクは14%低下(4)すると言われています。
また、マグネシウム補充による臨床試験では、2型糖尿病の血糖を改善(8)、インスリン抵抗性を改善(9,10)、血圧を低下(9,12)、抗脂質効果(9,13)、空腹時血糖値を下げると同時にHDLコレステロール値を上げる(11)、インスリン抵抗性を改善すると共に膵β細胞のインスリン分泌機能をも改善(14)して臨床的に有効であると報告されています。
<文献>
(1) Lopez-Ridaura R, et al., Diabetes Care 27:134-140, 2004
(2) Larsson SC,et al., J Intern Med 262:208‒214, 2007
(3) Song Y, et al., Diabetes Care 27:59-65, 2004
(4) Kim DJ, et al., Diabetes Care 33:2604-2610, 2010
(5) Kirii K, et al., J Am Coll Nutr 29:99-106, 2010
(6) Hata A, et al., Diabetic Medicine 30:1487‒1494, 2013
(7) Konishi K, et al., Euro J Nutr 2015 Dec 21. [Epub ahead of print]
(8) Rodriguez-Moran M, et al., Diabetes Care 26:1147-1152, 2003
(9) Yokota, K et al., J Am Coll Nutr 23:506S-509S, 2004
(10) Guerrero-Romero F, et al., Diabetes Metab 30:253-258, 2004
(11) Song Y, et al., Diabet Med 23:1050-1056, 2006
(12) Guerrero-Romero F, et al., J Human Hyperten 23:245-251, 2009
(13) Kishimoto Y, et al., British J Nutr 103(4):469-72, 2010
(14) Guerrero-Romero F, et al., Eur J Clin Invest 41:405-410, 2011
【コメント】
今回、「わが国における糖尿病推定有病率と生活環境の推移」の図を昭和21(1946)年~平成29(2017)年まで、わが国の財産とも言える戦後71年間のデータを基に解析しました。
穀物(特にマグネシウムが豊富な大麦・雑穀など)の摂取量が激減した時点と糖尿病が増え始めた1960年代の時点が一致することが注目されます。医学界による長年の日本人の糖尿病の発症要因は脂肪摂取量の増加と運動不足による肥満が定説となっています。しかし、脂肪摂取量は1980年代以降には横這いか減少傾向になり、エネルギー摂取量は1970年代以降には減少しているにも拘らず糖尿病有病率は増加していることから、定説による説明には限界があります。この増加の背景には、国民の食事性マグネシウムの摂取不足と高齢者人口の増加・加齢による影響が関係しています。
マグネシウムはカルシウムの陰に隠れて来た長い歴史があります。わが国の国民一人当たりのカルシウム摂取量は、厚生省(当時)が国民栄養の現状として戦後1946年来毎年調査報告し、厚生労働省が国民健康・栄養調査として2003年来毎年調査報告しています。一方マグネシウム摂取量は、カルシウムの調査報告より55年後の2001年から厚生省が調査報告を開始しました。カルシウムと比較し、マグネシウムはそれほど研究されていない“オーファン栄養素(Orphan nutrient)”です。この為、マグネシウムに関する国の認知が相当遅れたため国民の認知が更に遅れています。
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マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。
マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。