公開日:2018-06-25
2018年4月、京都大学大学院糖尿病・内分泌・栄養内科学らの長浜研究グループが“インスリン抵抗性低下を伴う食習慣: 長浜研究”と題した研究報告をしたので、その論文概要を紹介します。
目的
糖尿病のホメオスタシス・モデルによって評価されるインスリン抵抗性と食習慣との関連を調査することが目的です。
方法
対象は、2008~2010年に滋賀県長浜市地域住民コホート研究の参加者30~74歳です。ベースライン時の質問票調査に回答した成人男女9,764人のうち、妊娠女性、空腹時採血が10時間未満の人、経口血糖降下薬/インスリン/ステロイドを服用中の人、腎機能低下の人、低血糖や高血糖の人、空腹時の血清インスリン値が高すぎて空腹時とみなされなかった人、膵臓疾患の人などは解析から除外しました。解析対象者は4,327人(女性2,956人、男性1,371人)でした。
解析は、コミュニティベースのコホート、長浜前向きコホートを用いた横断的分析です。
重回帰分析は、従属変数としてlog HOMA-IR(インスリン抵抗性の指標)またはlog HOMA-β(インスリン分泌能を示す)およびそれぞれの性別ごとに独立した同時変数として喫煙、病歴、糖尿病家族歴、年齢やBMI(体格指数)を含む20項目の食習慣との関連を調査しました。
結果
女性(2,956人)では、毎日魚料理を食べると週に1回以下の人と比べてインスリン抵抗性(HOMA-IR)が0.90倍(P = 0.043)と低く、味噌汁を毎日食べると週に2~3回以下の人と比べてインスリン抵抗性が0.95倍(P = 0.038)と低く認められました。さらに女性では、アルコールの摂取頻度が週に4回以上の人で飲まない人と比べてインスリン抵抗性に有意差は認められず、インスリン分泌能が0.91倍(P=0.001)と低下が認められました。
男性(1,371人)では、野菜を毎日食べると週に4~5回以下の人と比べてインスリン抵抗性が0.91倍(P=0.003)と低下し、卵料理を週に4~5回食べると週に1回以下の人と比べてインスリン抵抗性が1.14倍(P=0.011)高く、または果物を毎日食べると週に4~5回以下の人と比べてインスリン抵抗性が1.13倍(P=0.008)高まりました。さらに男性では、アルコールの摂取頻度が週に4回以上の人で飲まない人と比べてインスリン抵抗性が0.86倍(P<0.001)と有意に低く、インスリン分泌能が0.77倍(P<0.001)と有意に低下が認められました。
結論
インスリン抵抗性の低下を伴う食習慣は、毎日の魚料理、味噌汁、野菜料理を食べ、夕食の主食として卵料理、果物をそれほど頻繁に食べないことです。
参考資料:
Ikeda K, Sato T, Nakayama T, Tanaka D, Nagashima K, Mano F, Joo E, Fujimoto S, Takahashi Y, Kosugi S, Sekine A, Tabara Y, Matsuda F, Inagaki N; Nagahama Study Group. Dietary habits associated with reduced insulin resistance: The Nagahama study. Diabetes Res Clin Pract 141:26-34, 2018 doi: 10.1016/j.diabres.2018.04.006. [Epub ahead of print]
https://www.diabetesresearchclinicalpractice.com/article/S0168-8227(17)31945-9/fulltext
【コメント】
滋賀県長浜市地域住民コホート研究の前向き調査にて成人男女のインスリン抵抗性の低下を伴う食習慣は、毎日の魚料理、味噌汁、野菜料理を食べ、夕食の主食として卵料理、果物をそれほど頻繁に食べないことと報告したことは、糖尿病や心血管疾患などの保護に大変意義があると言えます。
この論文では、必須主要ミネラルのマグネシウムと食習慣について言及していませんが、魚料理、味噌汁、野菜料理にはマグネシウム含有量が豊富で、卵料理、果物には少ない特徴があります。
日本の地域住民コホート研究は他にも福岡県久山町研究、岐阜県高山町研究、多目的コホート研究(JPHC研究)が報告されています。MAG21研究会のホームページでは、それらの論文についても解説して来ました。
[2013-12-12] マグネシウム摂取量はインスリン抵抗性と炎症の改善を介して2型糖尿病リスクを低下: 久山町研究
[2016-02-05] 食事性マグネシウム摂取量と日本人コミュニティの糖尿病リスク: 高山町研究
[2017-09-19] 日本人の食事からのマグネシウム摂取量と男性における冠動脈疾患リスク: 多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果
マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現状です。
マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連しています。
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マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。