日本人の食事摂取基準(2020年版)

公開日:2020-07-08

厚生労働省から国民に対し、「日本人の食事摂取基準」として男女年齢毎に必要な栄養素とその望ましい摂取量が提示されています。

わが国の食事摂取基準は、厚生労働省が5年毎に見直しをしています。初回は平成16年11月22日「日本人の食事摂取基準(2005年版)」、次に平成21年5月29日「日本人の食事摂取基準(2010年版)」、平成26年3月28日「日本人の食事摂取基準(2015年版)」、今回は2019(令和元)年12月24日「日本人の食事摂取基準(2020年版)」として公表し、詳細は厚生労働省のホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/syokuji_kijyun.html から公開されています。

日本人の食事摂取基準(2020年版)の概要
主な内容を一部抜粋します。

策定方針
日本人の食事摂取基準は、健康な個人及び集団を対象として、国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を示すものである。
2020 年版は、栄養に関連した身体・代謝機能の低下の回避の観点から、健康の保持・増進、生活習慣病の発症予防及び重症化予防に加え、高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れて策定を行うこととした。

使用期間
使用期間は、2020(令和2)年度から2024(令和6)年度の5年間。

図1 日本人の食事摂取基準(2020年版)策定の方向性

ここからは特に、マグネシウムの食事摂取基準について述べます。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書では、以下の基本的事項が解説されているので、主な内容を一部抜粋します。

定義と分類
マグネシウム(magnesium)は原子番号12、元素記号Mg の金属元素の一つである。マグネシウムは、骨や歯の形成並びに多くの体内の酵素反応やエネルギー産生に寄与している。生体内には約25 g のマグネシウムが存在し、その50~60% は骨に存在する。

機能
血清中のマグネシウム濃度は、1.8~2.3 mg/dL に維持されており、マグネシウムが欠乏すると腎臓からのマグネシウムの再吸収が亢進するとともに、骨からマグネシウムが遊離し利用される他、低マグネシウム血症となる。低マグネシウム血症の症状には、吐き気、嘔吐、眠気、脱力感、筋肉の痙攣、ふるえ、食欲不振がある。また、長期にわたるマグネシウムの不足が、骨粗鬆症、心疾患、糖尿病のような生活習慣病のリスクを上昇させることが示唆されているが、更なる科学的根拠の蓄積が必要である。

消化、吸収、代謝
マグネシウムの腸管からの吸収率は40~60%程度と推定される。成人で平均摂取量が約300~350 mg/日の場合は約30~50%であり、摂取量が少ないと吸収率は上昇する。4~8歳のアメリカ人の小児では、摂取量が約200 mg/日の場合、マグネシウムの吸収率は約60~70%であった。

生活習慣病の発症予防
高血圧:
55 歳以上の高齢者を対象としたオランダの研究では、100 mg/日のマグネシウム摂取量増加は収縮期/拡張期血圧の1.2/1.1 mmHgの有意の降圧を伴うことが示されている。介入試験のメタ・アナリシスでは、平均410 mg/日のマグネシウム補充で収縮期/拡張期血圧が-0.32/-0.36 mmHgと、わずかだが有意に低下したと報告されている。しかし、降圧効果を証明できなかったメタ・アナリシスもある。この中で最も多くの試験を用いた報告(平均8 週間の105の研究を扱い、対象者の人数は6,805人)では、マグネシウムの介入試験には質に問題のあるものが少なくないとのコメントもある。2016年のメタ・アナリシス、2017年のメタ・アナリシスは、どちらもマグネシウムの補充により血圧が低下することを示している。マグネシウムの補充量は240~960 mg、365~450 mgであった。

糖尿病:
マグネシウム摂取量と2型糖尿病との関連について検討した13の前向きコホート研究のメタ・アナリシスでは、マグネシウムの摂取量と2型糖尿病の罹患リスクは負の相関を示し、100 mg/日のマグネシウム摂取量増加は、相対リスクを0.86に低下させた。2016年に発表された同様の解析でも、100 mg/日のマグネシウム摂取量増加により、2型糖尿病の発症を8~13%減少させると報告されている。
日本人を対象とした報告では、マグネシウム摂取と糖尿病発症の間には関係は見られていない。これは摂取レベルが低いことも原因していると考えられるが、日本人を対象とした更なる報告が必要と考えられる。
カルシウムの場合と同様に、マグネシウムの補給摂取(マグネシウム630 mg/日相当)によるメタボリックシンドロームの発症リスク改善の報告(50 歳代の2型糖尿病患者が対象)がある。しかし、糖尿病の予防に必要なマグネシウムの摂取量を明らかにするためには、更なる縦断研究の蓄積が必要である。

慢性腎臓病:
慢性腎臓病では、低マグネシウム血症(1.8 mg/dL未満)を呈する患者は、死亡率が高く腎機能低下速度が速いと言う報告がある。特に糖尿病腎症の患者では血清マグネシウム値が低下しやすく、そのような患者で腎機能低下速度が速い。一般に腎機能低下とともに血清マグネシウム値は上昇するが、目標量は科学的根拠が無く不明である。

マグネシウムの食事摂取基準(mg/日) 「日本人の食事摂取基準(2020年版)

1 通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量は、成人の場合350 mg/日、小児では5 mg/kg体重/日とした。それ以外の通常の食品からの摂取の場合、耐容上限量は設定しない。

参考資料:
厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 2019(令和元)年12月24日 健康局健康課栄養指導室
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html

【コメント】
マグネシウムの食事摂取基準量は、平成元年(1989)の「第4次改訂栄養所要量」で初めて取り上げられ、目標摂取量300 mg(例として、男性30~49歳)とされました。その後、マグネシウムの重要性が指摘されるも国はなかなか認めず第6次改訂で、漸く栄養所要量として320 mgが策定され、2004(平成16)年(2005年版)に漸く推奨量として370 mg(例として、男性30~49歳)まで増量。2009(平成21)年(2010年版)には370 mg(例として、男性30~49歳)、2014(平成26)年(2015年版)でも370 mg(例として、男性30~49歳)、2019(令和元)年(2020年版)でも370 mgとし、全く改訂されていません。

わが国のマグネシウムの食事摂取基準量は、2014(平成26)年3月28日「日本人の食事摂取基準(2015年版)」と2019(令和元)年12月24日「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を比較すると、2020年版の年齢区分で高齢者については65~74 歳、75 歳以上の二つの区分が追加されました。

なお、今回の厚労省の報告書に、血清マグネシウム値が1.8から2.3 mg/dLとありますが、一般的な測定法であるキシリジルブルー法では1.8から2.6 mg/dLが一般的です。しかしながら現在の基準値は下限が低すぎる問題が指摘されており、完全健常者では2.2~2.6㎎/dLです。

MAG21研究会のホームページサイト 2018-12-11 平成29年国民のマグネシウム摂取量 でお知らせしていますが、男性30~49歳でマグネシウムの1日当りの推奨量370 mgに対し、平均摂取量は234~239 mg/日で、およそ1/3の131~136 mgが不足しているのが現状と言えます。更に、厚生省(当時)が初めて国民栄養調査にマグネシウムを含めた2001(平成13)年から2017(平成29)年の推定摂取量は、この17年間で1日当りおよそ280 mgから230 mg代まで減少していることは注目される点です。この様に不足している状況下でも、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、次の2020(令和2)年度から2024(令和6)年度までの5年間も以前と同じ推奨量が提示されています。

当ホームページでは、マグネシウムと糖尿病、高血圧やメタボリックシンドロームなどとの密接な関係についても解説して来ました。

マグネシウム摂取と糖尿病発症リスクの関連の臨床疫学研究およびメタ解析は可也エビデンスが揃ってきています。また、二重盲検試験の介入研究で、血糖コントロールへの影響やインスリン抵抗性改善作用の報告があるにも関わらず、厚労省は依然消極的なままです。

なお、当ホームページの「専門家が語るマグネシウム」のマグネシウムのおすすめ書籍コーナーで糖尿病、血圧やメタボリックシンドロームなどとマグネシウム摂取不足との関係は、横田邦信著の“マグネシウム健康読本”(現代書林)、“糖尿病ならすぐに「これ」を食べなさい!”(主婦の友社)などにも詳しく書かれていますのでご参考にして下さい。

今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知されて食育にも取り入れられる事が切に望まれます。

この記事に対するご意見やご質問を心からお待ちしております。

検索


新着記事