公開日:2022-09-09
2022年、メキシコ・Instituto Mexicano del Seguro Socialの研究者らは、“マグネシウム対カルシウム比と新型コロナウイルス(COVID-19)死亡率”に関する報告をしたので、その論文の概要を以下に紹介します。
背景
新型コロナウイルス(COVID-19)患者によく見られる肥満、2型糖尿病、高血圧症、免疫応答の低下、サイトカインストーム、内皮機能障害、不整脈は、低マグネシウム血症と関連しています。
この研究目的は、マグネシウムとカルシウムの細胞流入と流出に同じトランスポーターが関与していることを考慮し、血清マグネシウム対カルシウム比と重度の COVID-19 による死亡率との関連を評価することです。
方法
2020 年 3 月から 2021 年 7 月までに COVID-19 により入院した患者60.3 ± 15.7 歳計1,064 人の臨床および検査データを分析しました。
結果
死亡退院した 554 人 (52%) の患者データと、軽快退院した 510 人 (48%) の患者データを比較しました。
分析結果、COVID-19 による死亡リスクが高い個人を特定するためのマグネシウム対カルシウム比の最適なカットオフ値が 0.20 でした。
調整された多変量回帰モデルでは、マグネシウム対カルシウム比≤0.20とCOVID-19による死亡により退院とのオッズ比が全集団で6.93 (95% CI 1.6–29.1)、男性で4.93 (95% CI 1.4–19.1、p = 0.003)、女性で 3.93 (95% CI 1.6–9.3)を認めました。
結論
血清マグネシウム対カルシウム比が 0.20 以下の場合、重度の COVID-19 患者の死亡率と強く関連していることを示しています。
参考資料:
Guerrero‐Romero F, Mercado M, Rodríguez‐Morán M, Ramírez-Renteria C, Martínez-Aguilar G, Marrero-Rodríguez D, Ferreira-Hermosillo A, Simental-Mendía LE, Remba-Shapiro I, Gamboa-Gómez CI, Albarrán-Sánchez A, Sanchez-García ML. Magnesium-to-Calcium Ratio and Mortality from COVID-19. Nutrients 14:1686, 2022 doi: 10.3390/nu14091686
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9101802/
【コメント】
このメキシコの研究者らは、血清マグネシウム対カルシウム比と重度の COVID-19 による死亡率との関連を評価し、比率が0.20 以下の場合に重度の COVID-19 患者の死亡率と強く関連していることを示した事に意義があります。
低マグネシウム血症は、様々な臨床症状と関係しています。
血清マグネシウム値を監視することは極めて重要です。日本では糖尿病患者とその予備軍がおよそ2000万人と推定されているので、相当数が低マグネシウム血症の可能性が有ります。また、糖尿病以外でも血清マグネシウム値が実際には低い疾患や病態が多数ありますが、現在の基準値ではその多くが基準値内に含まれている可能性があります。また、現実として2つの問題点が有ります。まず、一般的にマグネシウムの重要性について認知が低いために、臨床現場に於いて患者さんの血清マグネシウムを測定する医師が極めて少ないことです。2つ目は、わが国で臨床検査に使用しているマグネシウムの基準値がメタボや糖尿病予備軍などを含む従来のままで、完全健常者による基準値の再策定がされてないために、特に、下限値(日本の血清マグネシウムの基準値の多くが 1.8~2.6 mg/dLですが)が低く設定されており、慢性的潜在性マグネシウム欠乏症(CLMD: Chronic Latent Magnesium Deficiency)の患者さんが多数見逃されていると思われます(横田邦信,白石正孝,恩田威一ほか:健常者における血清総マグネシウム(Mg)基準値の妥当性に関する検討.JJSMgR 26:100-101, 2007.)。この問題は以前から横田らが警鐘を鳴らして来ましたが漸く、コロナ禍を契機に注目されるに至りました(DOI: 10.1007/s00394-022-02916-w、血清マグネシウム基準値の(グローバルな)標準化の推奨)。わが国でも早く解決し、現実に沿った正しいマグネシウム基準値が臨床で使用されることが望まれます。
なお、静脈血では血清分離するまでの時間が短いほどより正確な値が得られるので採血直後に血清分離した検体を検査に用いるのが理想的です。数時間以上経った血液を血清分離した検体(血清)を用いた場合は高値になるので結果の判定には注意が必要です。
このメキシコの研究者らのDr. Guerrero-Romero、Dr. Rodríguez-Moránは2012年メキシコのメリダで開催された第13回国際マグネシウムシンポジウム(INTERNATIONAL SOCIETY FOR THE DEVELOPMENT OF RESEARCH ON MAGNESIUM, SDRM, https://www.sdrmsociety.org/ )の会長ご夫妻で、マグネシウムと糖尿病、高血圧、メタボリックシンドローム、うつ病などに関し、精力的に研究を進め多くの研究論文を発表されています。2006年日本(三重県 賢島)で開催された第11回国際マグネシウムシンポジウム(SDRM)にも参加されました。MAG21研究会のホームページでは、一部の研究論文を紹介しています。
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