公開日:2022-07-05
2022年、MAG21研究会のメンバーで東京慈恵会医科大学 客員教授 横田邦信先生が共同研究者として参加した計14ヶ国(アメリカ、ドイツ、イラン、イタリア、台湾、メキシコ、韓国、スロバキア、ポーランド、ルーマニア、イスラエル、イギリス、カナダ、日本)の研究者らは、“血清マグネシウム基準値の(グローバルな)標準化の推奨”に関する報告をしたので、その論文の概要を以下に紹介します。
目的
血清マグネシウムは、臨床的なマグネシウムの状態を評価するために最も頻繁に使用される臨床検査です。 多くの慢性疾患に関連する低マグネシウム血症(低マグネシウム状態)は、血清マグネシウム基準値を使用して診断されています。現在、マグネシウム血症の(適正な)範囲の国際的なコンセンサスは存在しません。独立した2グループは、低マグネシウム血症を定義する下限値0.85mmol/L(2.07 mg/dL; 1.7 mEq/L)を示しています。グローバルマグネシウムプロジェクト(MaGNet)のメンバーによる議論により、メンバーの病院や検査室で使用している血清マグネシウム基準値の違いが明らかになり、標準化が急務です。
方法
世界中の医療機関、病院、共同研究者から血清マグネシウム基準値を収集して比較しました。
結果
「低マグネシウム血症」を示す血清マグネシウム値は大きく異なります。 16ヶ国から収集した43例の値のうち、低マグネシウム血症を定義するための下限値0.85 mmol/L(2.07 mg/dL)に達したのは2例だけでした。 残りの下限値はより低く、病院、臨床、研究評価において低マグネシウム血症の診断を過小評価している可能性があります。 現在の血清マグネシウム基準値は慢性潜伏性マグネシウム不足(CLMD)の人を無意識のうちに「正常な」集団に含ませています。CLMD患者の血清マグネシウム値は、広く使用されている「正常」範囲内に入り、マグネシウムの状態は長期的な健康には低過ぎます。
結論
血清マグネシウムの基準範囲が大きく異なるために、この重要な医療ツールの使用が不正確となり、疾患リスクのマーカーとしての低マグネシウム状態または低マグネシウム血症の影響が最小限に抑えられます。マグネシウムの状態を適切に診断し、意識を高めて管理するには、低マグネシウム血症の下限値を0.85 mmol/L(2.07 mg/dL; 1.7 mEq/L)で標準化することが重要です。
参考資料:
Rosanoff A, West C, Elin RJ, Micke O, Baniasadi S, Barbagallo M, Campbell E, Cheng FC, Costello RB, Gamboa-Gomez C, Guerrero-Romero F, Gletsu-Miller N, von Ehrlich B, Iotti S, Kahe K, Kim DJ, Kisters K, Kolisek M, Kraus A, Maier JA, Maj-Zurawska M, Merolle L, Nechifor M, Pourdowlat G, Shechter M, Song Y, Teoh YP, Touyz RM, Wallace TC, Yokota K, Wolf F; MaGNet Global Magnesium Project (MaGNet). Recommendation on an updated standardization of serum magnesium reference ranges. Eur J Nutr. 2022 Jun 10:1-10.
DOI: 10.1007/s00394-022-02916-w
【コメント】
この研究者らが、16ヶ国から収集した血清マグネシウム基準値を比較し、低マグネシウム血症の下限値を標準化することが重要と発表した事に意義があります。
血清マグネシウム値を監視することは極めて重要です。日本では糖尿病患者とその予備軍がおよそ2000万人と推定されているので、相当数が低マグネシウム血症の可能性が有ります。また、糖尿病以外でも血清マグネシウム値が実際には低い疾患や病態が多数ありますが、現在の基準値ではその多くが基準値内に含まれてしまう可能性があります。また、現実として2つの問題点が有ります。まず、一般的にマグネシウムの重要性について認知が低いために、臨床現場に於いて患者さんの血清マグネシウムを測定する医師が極めて少ないことです。2つ目は、わが国で臨床検査に使用しているマグネシウムの基準値がメタボや糖尿病予備軍などを含む従来のままで、完全健常者による基準値の再策定がされてないために、下限値(日本の血清マグネシウムの基準値の多くが 1.8~2.6 mg/dLですが)が低く設定されており、低マグネシウム血症の患者さんが多数見逃されていると思われます(横田邦信,白石正孝,恩田威一ほか:健常者における血清総マグネシウム(Mg)基準値の妥当性に関する検討.JJSMgR 26:100-101, 2007.)。この問題は以前から横田らが警鐘を鳴らして来ましたが漸く、コロナ禍を契機に注目されるに至りました。嬉しいことです。わが国でも早く解決し、現実に沿った正しいマグネシウム基準値が臨床で使用されることが望まれます。なお、静脈血では血清分離するまでの時間が短いほどより正確な値が得られるので採血直後に血清分離した検体を検査に用いるのが理想的です。数時間以上経った血液を血清分離した検体(血清)を用いた場合は高値になるので結果の判定には注意が必要です。
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。