全粒食品摂取量と2型糖尿病リスク: 3つの前向きコホート研究結果

公開日:2020-07-27

2020年、米国・ハーバード大学公衆衛生学部、Brigham and Women’s Hospital・ハーバード医科大学の研究者らは、“全粒食品摂取量と2型糖尿病リスク: 3つの前向きコホート研究結果” と題した研究報告をしたので、その論文概要を紹介します。

目的
研究の目的は、全粒食品全体および個別の摂取量と2型糖尿病リスクとの関連を調査することです。

デザイン
前向きコホート研究*

* コホート研究は、疫学分析における研究手法の1つで、ある要因に曝露した集団と曝露していない集団を追跡調査して、研究対象疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生との関連を調べる方法です。要因対照研究(factor-control study)と同義です。コホート研究は集団を前向きに調査追跡しているので、曝露から疾病の発生までの過程を見られる特徴があります。

設定
看護師健康調査(Nurses’ Health Study1, NHS; 1984–2014年)、看護師健康調査II(Nurses' Health Study II2, NHS II; 1991–2017年)、医療従事者追跡調査(Health Professionals’ Follow-Up Study3, 1986–2016年)。

注釈:
1 Nurses’ Health Study (NHS)は、米国Brigham and Women’s Hospital、米国ハーバード医科大学、米国ハーバード大学公衆衛生学部がアメリカ国立衛生研究所(NIH, National Institutes of Health)からの研究助成金により1976年に開始されたアメリカの看護師健康調査で、登録時既婚女性看護師30~55歳121700人が11州(California, Connecticut, Florida, Maryland, Massachusetts, Michigan, New Jersey, New York, Ohio, Pennsylvania, and Texas)から参加。
http://www.nurseshealthstudy.org/ 

2 Nurses' Health Study II (NHS II)は、1989年にNHSよりも若年層の看護師健康調査で、登録時女性看護師25~42歳116430人が14州(California, Connecticut, Indiana, Iowa, Kentucky, Massachusetts, Michigan, Missouri, New York, North Carolina, Ohio, Pennsylvania, South Carolina, and Texas)から参加。
http://www.nurseshealthstudy.org/ 

3 Health Professionals’ Follow-Up Study (HPFS)は、米国ハーバード大学公衆衛生学部が米国国立がん研究所(NCI, National Cancer Institute)からの研究助成金により1986年に開始されたアメリカの男性医療従事者追跡調査で、51529人が参加。
https://sites.sph.harvard.edu/hpfs/ 

参加者
ベースラインで2型糖尿病、心血管疾患、またはがんの既往がない女性158,259人と男性36,525人。

主要評価基準
追跡調査時および検証済みの補足質問票によって確認された自己報告による2型糖尿病発症としました。

結果
追跡期間中に参加者18,629人の2型糖尿病が特定されました。
全粒穀物の1日総摂取量[食数(中央値)]について、3つのコホートを5グループに等分(五分位)しました(グループ1: 0.1食、グループ2: 0.4食、グループ3: 0.7食、グループ4: 1.1食、グループ5: 1.9食)。

糖尿病のライフスタイルと食事の危険因子を補正後、全粒穀物摂取量が最も高いグループ5は、最も低いグループ1と比較して、2型糖尿病リスクが29%(95%信頼区間CI 26%~33%)低下しました。

全粒食品の種類別で、1日1食以上摂取群と1ヶ月1食未満群と比較し、2型糖尿病の統合ハザード比(HR、95%信頼区間 CI)はそれぞれ、全粒冷たい朝食シリアルで0.81(95% CI 0.77~0.86)、ライ麦パンで0.79(0.75~0.83)、ポップコーンで1.08(1.00~1.17)でした。

平均摂取量が低い他の全粒食品の場合、1週間に2食以上摂取群と1ヶ月1食未満群と比較し、同統合ハザード比(HR)はそれぞれ、オートミールで0.79(0.75~0.83)、玄米で0.88(0.82~0.94)、ふすまで0.85(0.80~0.90)、小麦胚芽で0.88(0.78~0.98)でした。

全粒穀物摂取量の増加と2型糖尿病リスク減少との関連性は、太りすぎや肥満者よりも痩せた人の方に強く(P = 0.003)認められ、身体活動レベル、糖尿病家族歴、または喫煙状況では有意差が認められませんでした。

結論
全粒穀物と全粒朝食用シリアル、オートミール、ライ麦パン、玄米、ふすま、小麦胚芽を含む一般的に食べられている全粒食品摂取量の増加は、2型糖尿病リスクの低下と有意に関連していました。これらの調査結果は、2型糖尿病の予防のために健康的な食事の一部として全粒穀物摂取量を増やすという現在の推奨事項をさらにサポートします。

参考資料:
Hu Y, Ding M, Sampson L, Willett WC, Manson JE, Wang M, Rosner B, Hu FB, Sun Q. Intake of whole grain foods and risk of type 2 diabetes: results from three prospective cohort studies. BMJ2020;370:m2206
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m2206.long

【コメント】
全粒穀物と全粒朝食用シリアル、オートミール、ライ麦パン、玄米、ふすま、小麦胚芽を含む一般的に食べられている全粒食品摂取量の増加は2型糖尿病のリスク低下と有意な関連性、特に全粒穀物摂取量が1日0.1食と比較して1.9食だと2型糖尿病リスクが29%低下するのを示したことに意義があります。

全粒穀物は食物繊維やビタミン、ミネラル(特にマグネシウム)などを多く含み、インスリン抵抗性を改善し、食後高血糖を抑制して2型糖尿病に有益な予防効果をもたらしていることが知られています。

また、この研究者らの論文考察では、全粒食品にはさまざまな量の食物繊維、マグネシウム、抗酸化剤、植物化学物質が含まれているため、2型糖尿病のリスクとは明確に関連している可能性がある、と述べられています。

日本では戦後、穀物摂取量(特にマグネシウムが豊富な大麦・雑穀等)が激減した時点と糖尿病が増え始めた1960年代の時点が一致することから、マグネシウム摂取不足と2型糖尿病は密接に関係しています。
2019-02-01 わが国における糖尿病推定有病率と生活環境の推移(1946年~2017年) 更新

マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候軍)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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