公開日:2019-11-11
2018年、米国予防医療サービス委員会(USPSTF)が「地域在住の成人における骨折の一次予防のためのビタミンD、カルシウム、または併用サプリメント: 米国予防医療サービス委員会勧告」について公開したので、その論文概要を以下に紹介します。
重要
人口の高齢化により、米国における骨粗鬆症による骨折は罹患率と死亡率のますます重要な要因となっています。米国では2005年に約200万件の骨粗鬆症性骨折が発生し、2025年までに年間発生数は300万件を超えると予測されています。股関節骨折を経験してから1年以内に、多くの患者は独立して歩くことができず、半数以上が日常生活活動の支援を必要とし、患者の20%から30%が死亡しています。
目的
目的は、骨折を防ぐために、カルシウムの有無にかかわらず、ビタミンDサプリメントに関する2013年米国予防医療サービス委員会(USPSTF)勧告を更新することです。
証拠レビュー
USPSTFは、地域在住の成人(養護施設やその他施設の介護環境に住んでいないと定義される)における骨折の一次予防のためのビタミンD、カルシウムおよび併用サプリメントに関するエビデンスをレビューしました。このレビューでは、骨代謝に関連する既知の障害(例:骨粗鬆症またはビタミンD欠乏症)、骨粗鬆症(例:長期ステロイド)、または従来から骨折に関連することが知られている薬剤を服用している集団で行われた研究などを除外しています。
結果
USPSTFは、地域在住男性と閉経前の女性の骨折を防ぐためのビタミンD、カルシウム、または併用サプリメントの有効性を推定するための確証たるエビデンスが不十分であることが認められた。
USPSTFは、1日400 IU以下のビタミンDと1000mg以下のカルシウムのサプリメントは、地域在住閉経後女性の骨折の一次予防に有用性がないという確証あるエビデンスが認められた。
USPSTFは、地域在住閉経後女性の骨折を防ぐために、1日400 IUを超えるビタミンD量または1000 mgを超えるカルシウム量の有効性を推定するための確証たるエビデンスが不十分であることが認められた。
USPSTFは、ビタミンDとカルシウムのサプリメントが腎臓結石の発症率を高めるという確固たるエビデンスが認められた。
結論と勧告
USPSTFは、地域在住無症候性の男性と閉経前の女性の骨折の一次予防のために、ビタミンDとカルシウム・サプリメントの単独または併用の有効性と安全性のバランスを評価するには、現在のエビデンスでは不十分であると結論付けます。
USPSTFは、地域在住閉経後女性の骨折の一次予防のために、1日400 IUを超えるビタミンDと1000 mgを超えるカルシウム・サプリメントの有効性と安全性のバランスを評価するには、現在のエビデンスでは不十分であると結論付けます。
USPSTFは、地域在住閉経後女性の骨折の一次予防に対し、1日400 IU以下のビタミンDと1000 mg以下のカルシウム・サプリメント摂取を推奨します。
これらの勧告事項は、骨粗鬆症性骨折の既往、転倒のリスク増加、あるいは骨粗鬆症
またはビタミンD欠乏症の診断を受けた人には適用されません。
参考文献:
US Preventive Services Task Force. Vitamin D, Calcium, or Combined Supplementation for the Primary Prevention of Fractures in Community-Dwelling Adults: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA 319:1592-1599, 2018. doi: 10.1001/jama.2018.3185.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2678622
【コメント】
2013年に米国予防医療サービス委員会が「成人における骨折予防のためのビタミンDおよびカルシウムのサプリメント」について推奨しないとする新勧告に対し、2018年には同勧告を更新しました。今回もやはりリスクとベネフィットの観点からベネフィットのエビデンスが不十分で、カルシウムの過剰摂取は腎臓結石、尿路結石の発症率を上昇させるリスクのエビデンスが十分示されている為に警鐘を鳴らしていると言えます。
2013-05-15 骨折予防でのビタミンD・カルシウム摂取推奨せず: 米勧告
米国予防医療サービス委員会の論文では、骨とマグネシウムの関係について触れていません。マグネシウムは骨の構成成分の一つです。硬い骨にはカルシウムが必要ですが、硬くて丈夫な骨にはカルシウムとマグネシウムが必要です。
また、腎臓結石、尿路結石とマグネシウムの関係についても触れていません。腎臓結石、尿路結石の8割は蓚酸カルシウム結石が原因と報告されています。マグネシウムの摂取不足は尿路蓚酸カルシウム結石の発生に深く関わっています。わが国では、酸化マグネシウム製剤(マグミット錠など)が唯一「尿路蓚酸カルシウム結石の発生予防」としての効果・効能が認められている処方薬です。
近年、カルシウムのサプリメントと心疾患死亡リスクの上昇との関係に関する多くの研究報告があります。MAG21研究会のホームページでは、一部の研究論文について紹介しております。
また、日本人のカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)摂取量とCa/Mg摂取比率(1946~2017年)について当ホームページで紹介しています。
2019-01-11 日本人のカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)摂取量とCa/Mg摂取比率(1946~2017年) 更新
Ca/Mg摂取比率は、1946年から2017年の71年間を分析すると、1950年の最小0.83から2011年の最大2.18に上昇し、近年では2.1前後となっています。この上昇理由として戦後、Ca摂取量はおよそ2倍に上昇していますが、Mg摂取量はほぼ横ばいの状況のためです。
日本人のCaとMgの食事摂取比率は2より低く、1.5~1が望ましいと考えられています。この比率を減少させるにはMg摂取量を相当上昇させることが必要になります。
食事から摂るCa/Mg摂取比率が高いほど、虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患死亡率が高いといわれています。
日本では一般的に、Ca摂取の重要性と認識が高いので、Caばかり摂る事へのひとつの警鐘と考えられます。Caを意識して摂るのであればMgはそれ以上に意識して摂る必要があります。
マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。