2型糖尿病の低マグネシウム血症: 悪循環?

公開日:2019-10-23

2016年、オランダ ラドバウド大学医療センター、イギリス オックスフォード大学の研究者らが“2型糖尿病の低マグネシウム血症: 悪循環?” についての総説を発表したので、その論文概要を紹介致します。

過去数十年にわたり、低マグネシウム血症(血清Mg2+ 0.7 mmol/L未満、或いは1.7 mg/dL未満)は2型糖尿病(T2DM)と強く関連していると言われています。

低マグネシウム血症の患者は、より急速に疾患が進行し、糖尿病合併症のリスクが高くなります。

臨床研究によって、低マグネシウム血症のT2DM患者では膵臓β細胞活性は低下し、よりインスリン抵抗性であることが示されています。

さらに、T2DM患者に対する食事性Mg2+補充は、糖代謝とインスリン感受性を改善します。
細胞内Mg2+は、インスリン分泌に先行して膵臓β細胞のグルコキナーゼ、KATPチャネル、およびL型Ca2+チャネルを調節します。

また、インスリン受容体の自己リン酸化は細胞内のMg2+濃度に依存しており、Mg2+不足はインスリン抵抗性の発現の直接的な要因になります。

逆に、インスリンはMg2+ホメオスタシスの重要な調節因子です。

腎臓においてインスリンは、最終的な尿中Mg2+排泄を決定する腎臓Mg2+チャネルtransient receptor potential melastatin type 6 (TRPM6)を活性化します。

その結果、T2DMと低マグネシウム血症の患者は、低マグネシウム血症がインスリン抵抗性を引き起こし、インスリン抵抗性が血清Mg2+濃度を低下させるという悪循環に陥ります。

この視点から、Mg2+がインスリン分泌とインスリンシグナル伝達に及ぼす影響の基礎となる分子メカニズムの体系的な概要を提示します。

現行で把握されているレビューを提示することに加えて、将来の研究に新しい方向性を示し、T2DMの低マグネシウム血症に対して以前無視されていた要因を確認します。

参考資料:
Gommers LM, Hoenderop JG, Bindels RJ, de Baaij JH. Hypomagnesemia in Type 2 Diabetes: A Vicious Circle? Diabetes 65:3-13, 2016. doi: 10.2337/db15-1028.
https://diabetes.diabetesjournals.org/content/65/1/3.long

【コメント】
de Baaij JHらは以前からヒトとマグネシウムに関する研究論文を精力的に発表し、当ホームページでも取り上げています。
2019-05-16 ヒトにおけるマグネシウム: 健康と病気への影響

2型糖尿病と低マグネシウム血症の患者は、低マグネシウム血症がインスリン抵抗性を引き起こし、インスリン抵抗性が血清Mg2+濃度を低下させるという悪循環に陥るのを指摘したことに意義があります。

Mg2+は健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。

日本では糖尿病患者とその予備軍がおよそ2000万人と推定されているので、相当数が低マグネシウム血症の可能性が有ります。また、糖尿病以外でも血中マグネシウム値が低い男性と女性が存在しますが、2つの問題点が有ります。まず、一般的にマグネシウムの重要性について認知が低い為、臨床現場に於いて患者さんの血中マグネシウムを測定する医師が少ないことです。次に、わが国で臨床検査に使用しているマグネシウムの基準値がメタボ予備軍を含む従来のままで、完全健常者による基準値の再策定がされて無い為に、下限値(日本の正常血清マグネシウム値 1.8~2.6 mg/dLですが、1.8~2.0当り)があまく設定されており、低マグネシウム血症の患者さんが見逃されていると思われます(横田邦信,白石正孝,恩田威一ほか:健常者における血清総マグネシウム(Mg)基準値の妥当性に関する検討.JJSMgR 26:100-101, 2007.)。この問題は、早く解決し、現代に沿った正しいマグネシウム基準値が臨床で使用されることが望まれます。なお、静脈採血検体では血清分離時間が短いほどより正確な値が得られますが、数時間以上経った検体(血清)では高値になるので結果の判定には注意が必要です。

マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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