穀物(全粒と精製)摂取量は健康な成人の内臓脂肪および皮下脂肪と異なる関連: フラミンガムハートスタディー

公開日:2019-07-08

2010年、米国のタフツ大学米国農務省(USDA)高齢化に関する人間栄養研究センター(HNRCA)、マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital: MGH)、国立心肺血液研究所フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)、Brigham and Women’s Hospital、ハーバード医科大学の研究者らは、“穀物(全粒と精製)摂取量は健康な成人の内臓脂肪および皮下脂肪と異なる関連: フラミンガムハートスタディー” と題した研究報告をしたので、その論文概要を紹介します。

注釈: 「フラミンガムハートスタディー」のコホート疫学調査は、米国・ボストンにほど近い町Framinghamで1948年にスタートしました。
http://www.epi-c.jp/e201_1_0001.html

背景
観察研究では、全粒穀物の高摂取量と低腹部肥満を関連づけています。 しかしながら、穀物(全粒と精製)摂取量と体脂肪区画との関連はまだ報告されていません。

目的
研究の目的は、穀物(全粒と精製)摂取量と腹部皮下脂肪組織(SAT)および内臓脂肪組織(VAT)との関連を評価することです。

デザイン
フラミンガムハートスタディーの参加者2,834人(女性49.4%、年齢範囲32~83歳)において、穀物(全粒と精製)摂取量、ウエスト周囲測定値、腹部の皮下脂肪組織(SAT)および内臓脂肪組織(VAT)量との間の横断的関連性を調査しました。食事情報は、半定量的な食物摂取頻度質問票を用いて評価しました。

結果
年齢、性別、喫煙状況、総エネルギーとアルコール摂取量の調整後、全粒穀物摂取量は腹部皮下脂肪組織(五分位カテゴリーの比較で、最高の2552と最低の2895 cm3、P < 0.001)および内臓脂肪組織(1563と比較して1883 cm3、P < 0.001)と逆に関連していました。

対照的に多変量モデルでは、精製穀物摂取量は腹部皮下脂肪組織(2934と比較して2748 cm3、P = 0.01)および内臓脂肪組織(1928と比較して1727 cm3、P < 0.001)と正の関連を示しました。

腹部皮下脂肪組織(SAT)と内臓脂肪組織(VAT)を同時に評価した場合、SATのP値は減弱(全粒穀物に対してP = 0.28、精製穀物に対してP = 0.60)し、VATは全粒穀物(P < 0.001)と精製穀物(P < 0.001)の両方に関連したままでした。











結論
全粒穀物摂取量を増やすと成人の内臓脂肪組織(VAT)の低下と関係していますが、精製穀物摂取量が多いとVATの増加と関係しています。全粒穀物食品および精製穀物食品が体脂肪分布に影響を及ぼす潜在的なメカニズムを知るために更なる研究が必要です。

参考資料:
McKeown NM, Troy LM, Jacques PF, Hoffmann U, O'Donnell CJ, Fox CS. Whole- and refined-grain intakes are differentially associated with abdominal visceral and subcutaneous adiposity in healthy adults: the Framingham Heart Study. Am J Clin Nutr 92:1165-1171, 2010
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2954448/

【コメント】
「フラミンガムハートスタディー」のコホート疫学調査で全粒穀物摂取量の増加は内臓脂肪と皮下脂肪を減らし、精製穀物摂取量の増加はそれらの脂肪を増やすとの結果を報告したことに意義があります。

全粒穀物は食物繊維やビタミン、ミネラル(特にマグネシウム)などを多く含み、インスリン抵抗性を改善し、食後高血糖を抑制して2型糖尿病に有益な予防効果をもたらしていることが知られています。

日本では戦後、穀物摂取量(特にマグネシウムが豊富な大麦・雑穀等)が激減した時点と糖尿病が増え始めた1960年代の時点が一致することから、マグネシウム摂取不足と2型糖尿病発症とは密接に関係しています。
2019-02-01 わが国における糖尿病推定有病率と生活環境の推移(1946年~2017年) 更新

マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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