公開日:2007-08-13
なぜマグネシウム不足?
● 近年、日本人のマグネシウム不足として様々な原因が提唱されています。
◆ 食生活の“半欧米化”
日本人は本来、ミネラルを多く含む穀類などを主食として野菜・海産物などを食べてきました。戦後の“半欧米化”した食生活は、特に穀類(大麦・雑穀など)の摂取が激減し、逆に高脂肪・高タンパク・高カロリーの食事が増えています。
1988年(昭和63年)当時の国会では、参議院議員塩出啓典先生の政府(竹下登内閣総理大臣)に対する質問主意書「質問第十四号 マグネシウムの摂取に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する 昭和六十三年十月十四日」が提出されています。塩出議員は、“食生活の洋風化により、マグネシウムの欠乏は、高血圧、心臓病さらには、糖尿病、腎臓結石等の成人病の誘因となるが、政府はマグネシウムの生体における重要性をどのように認識しているのか”などを質問されています。わが国では、塩出議員のご尽力により、この当時の国会から既に、マグネシウムの摂取不足に対する問題認識と議論がなされてきた歴史があります。しかし、政府の対応が遅れているため、20年後の現在でも糖尿病、高血圧、心臓病などのいわゆる生活習慣病の有病率は増加の一途をたどっている状況です。
東京慈恵会医科大学の横田は、「2型糖尿病の発症は、食事性マグネシウムの慢性的摂取不足が強く関与する“Mg仮説”」を提唱しました。(横田邦信:2型糖尿病発症-インスリン分泌とインスリン抵抗性へのマグネシウムの関与。『分子糖尿病学の進歩-基礎から臨床まで-』金原出版 2006)。
戦後の食環境と糖尿病有病率の推移を見ると、1965~1970年にかけて急激に大麦・雑穀類の摂取量が減り、マグネシウムの慢性的摂取不足となり、この頃より糖尿病が激増しはじめました。
肥満に基づくインスリン抵抗性に加えてマグネシウム不足によるインスリン抵抗性に対して日本人は、民族的に代償性のインスリン分泌亢進ができにくいために容易に2型糖尿病を発症しやすいと考えられます。
そしてこの“Mg仮説”は、以下の欧米の研究報告で支持されています。
Kao WHL, et al., Arch Int Med 159:2151-2159, 1999
Lopez-Ridaura R, et al., Diabetes Care 27:134-140, 2004
Song Y, et al., Diabetes Care 27:59-65, 2004
Huerta MG, et al., Diabetes Care 28:1175-1181, 2005
Van Dam RM, et al., Diabetes Care 29:2238-2243, 2006
Schulze MB, et al., Arch Intern Med 167:956-965, 2007
◆ 塩の問題
昔から日本は、塩化ナトリウムの他に、マグネシウムをはじめ多くの微量ミネラルを含む粗塩を使っていました。
しかし、1972年(昭和47年)には塩田法が廃止され、精製塩[食塩(塩化ナトリウム99%以上)]が一般家庭に普及されるようになりました。以来、塩と共にマグネシウムを摂っていた時代が終わりました。
そして1997年(平成9年)に塩の専売法が廃止されましたが、一般には依然として食塩の普及が多いようです。
更に、ナトリウムの過剰摂取は高血圧の原因になるだけでなく、尿中へのマグネシウム排泄を増やすため体内のマグネシウムは更に不足ぎみになるといわれています。
◆ 水質
日本各地の河川は、マグネシウムやカルシウムの少ない軟水(硬度:100以下)です。
◆ ストレス
ストレスが社会現象になったのは、戦後の日本が高度成長期を迎えてからといわれていますが、マグネシウムとストレスは深い関係にあります。
国立健康・栄養研究所の西牟田守先生らの研究では、ストレスがかかると、尿中にマグネシウム量が増えると報告されています(マグネシウム7:123-132,1988、 In: Magnesium in Health and disease (Y. Itokawa & J. Durlach,eds), John Libbey & Co Ltd., London, pp. 279-284,1989、疲労と休養の科学4:55-60,1989)。
● 厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2005年版)」と「平成15年国民健康・栄養調査結果」を比較すると、マグネシウムの摂取量が不足していると推定されます。
成人30~49歳男性の場合のマグネシウム推奨量と推定摂取量の比較をすると、
1日あたりおよそ100mg以上が不足しているといえます。