高齢者の不眠症に対する経口マグネシウム補充: 系統的レビューとメタ解析

公開日:2021-08-27

2020年、加・ダルハウジー大学、マックマスター大学医学部の研究者らが“高齢者の不眠症に対する経口マグネシウム補充: 系統的レビューとメタ解析”と題した研究報告をしたので、その論文概要を紹介します。

背景
マグネシウム補充は、睡眠を改善すると良くいわれます。 しかし、市販の睡眠補助薬と補完代替医療品の両方として、この主張を裏付けるエビデンスは限られています。
研究目的は、不眠症の高齢者に対するマグネシウム補充の有効性と安全性を評価することです。

方法
MEDLINE、EMBASE、補完医学、clinicaltrials.govなどの主要な文献データベースで検索し、マグネシウム補充とプラセボまたは無治療を比較しました。結果は、睡眠の質、量、および有害事象でした。
バイアスのリスクとエビデンスの質の評価は、RoB 2.0とGRADEアプローチを使用しました。
データをプールし、平均差を使用して治療効果を定量化しました。

結果
3ヶ国計151人の高齢者を対象に経口マグネシウムとプラセボを比較した3件のランダム化比較試験(RCT)が特定されました。試験年代、実施国、使用されたマグネシウム化合物はそれぞれ、2002年ドイツで酸化マグネシウム、2010年アメリカでクエン酸マグネシウム、2012年イランで酸化マグネシウムでした。
プール解析は、マグネシウム補充後の入眠潜在時間がプラセボと比較して17.36分短いことを示しました【95%信頼区間(CI) -27.27 ~ -7.44、p = 0.0006】。
総睡眠時間はマグネシウム補充群で16.06分改善しましたが、統計的に有意ではありませんでした。すべての試験でバイアスのリスクがあり、エビデンスの質が低いことが判りました。

結論
このレビューは、医師が不眠症の高齢者に対する経口マグネシウムの使用について十分な情報に基づいた推奨を行うには、文献の質が標準以下で不十分です。
しかし、経口マグネシウムは非常に安価で広く入手可能であることを考えると、ランダム化比較試験(RCT)のエビデンスは、不眠症の症状に対する経口マグネシウム補充(1日3回まで与えられる1g未満の量)を支持する可能性があります。

参考資料:
Mah J and Pitre T. Oral magnesium supplementation for insomnia in older adults: a Systematic Review & Meta-Analysis. BMC Complementary Medicine and Therapies 21:125, 2021
https://doi.org/10.1186/s12906-021-03297-z
https://bmccomplementmedtherapies.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12906-021-03297-z

【コメント】
この研究は、高齢者の不眠症に対する経口マグネシウム補充についてランダム化比較臨床試験の文献レビューを行い、マグネシウム補充後の入眠潜在時間がプラセボと比較して17.36分短いことを示し、総睡眠時間は16.06分改善したが統計的に有意差が認められませんでした。不眠症に対する経口マグネシウム補充についての臨床試験の報告は3報しかなく、十分な情報に基づいた推奨を行うには文献の質が標準以下であるが、経口マグネシウムは非常に安価で広く入手可能であり、不眠症の症状に対する経口マグネシウム補充を支持する可能性があると報告しています。

これら3件のランダム化比較試験(RCT)に使用されたマグネシウムは無機化合物の酸化マグネシウムが2件、有機化合物のクエン酸マグネシウムが1件で、わが国では酸化マグネシウムは腸管からの吸収が悪いため緩下剤(便秘薬)、クエン酸マグネシウムも下剤として使用しているので、経口マグネシウム補充の臨床試験には不向きと思います。

わが国が定めるマグネシウムの推奨量男女30~49歳1日当り男性で370mg、女性で290mgに対する摂取量から見た不足量は、1日当り男性で119~134mg、女性で71~85mgで近年の上昇傾向が見られるので、意識してマグネシウムを積極的にとり、若い時から不眠症などの予防に役立てていただきたいものです。

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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