食事性マグネシウム摂取量と心血管疾患による死亡率との関連: JACC研究

公開日:2021-07-02

2012年、大阪大学医学部、兵庫県立大学環境人間学部、愛知医科大学医学部の研究者らが、“食事性マグネシウム摂取量と心血管疾患による死亡率との関連: JACC研究”について報告をしたので、その論文概要を紹介します。

目的
目的は、アジアの成人人口における食事性マグネシウム摂取量と心血管疾患による死亡率との関連を調査することです。

対象者/方法
報告された調査結果は、日本共同コホート研究(JACC、文部科学省ががんリスク評価の為に研究支援)において、年齢40〜79歳の健康な日本人58,615人(男性23,083人、女性35,532人)の食事性マグネシウム摂取量に基づいています。
食事性マグネシウム摂取量は、1988年から1990年の間に実施された検証済みの食物摂取頻度アンケートによって評価しました。

結果
中央値14.7年の追跡期間中に1,227人の脳卒中死、557人の冠状動脈性心臓病死を含む2,690人の心血管疾患による死亡を記録しました。
食事性マグネシウム摂取量は、男性の出血性脳卒中による死亡率、女性の総および虚血性脳卒中、冠状動脈性心臓病、心不全、総心血管疾患による死亡率と逆相関していました。
心血管リスク因子とナトリウム摂取量を調整後の男性におけるマグネシウム摂取量の最高五分位(中央値マグネシウム摂取量293.7 mg/日)と最低五分位(中央値マグネシウム摂取量173.0 mg/日)の多変量ハザード比(HR、95%信頼区間、95%CI)は、出血性脳卒中0.49(0.26–0.95) P = 0.074、そして女性に於けるマグネシウム摂取量の最高五分位(中央値マグネシウム摂取量273.8 mg/日)と最低五分位(中央値マグネシウム摂取量174.5 mg/日)のハザード比は、総脳卒中0.68(0.48–0.96) P = 0.010、虚血性脳卒中0.47(0.29–0.77) P <0.001、冠状動脈性心臓病0.50(0.30–0.84) P = 0.005、心不全0.50(0.28–0.87) P = 0.002、総心血管疾患0.64(0.51–0.80) P <0.001でした。

注釈: 食事からのマグネシウム摂取量を5等分(五分位に振り分け)し、第1分位(一番少ないグループ)のハザード比を基準1.0とし、第5五分位(一番多いグループ)までを比較します。例として、第5分位のハザード比0.49は出血性脳卒中リスクが51%低下するという意味です。

結論
食事性マグネシウム摂取量の増加は、日本人、特に女性の心血管疾患による死亡率の低下と関連していました。

参考資料:
Zhanga W, Iso H, Ohira T, Date C, Tamakoshi A, JACC Study Group. Associations of dietary magnesium intake with mortality from cardiovascular disease: The JACC study. Atherosclerosis 221:587– 595, 2012
https://doi.org/10.1016/j.atherosclerosis.2012.01.034

【コメント】
この研究は、日本共同コホート研究(JACC)において、日本人の食事性マグネシウム摂取量の増加は、日本人、特に女性の脳卒中など心血管疾患による死亡率の低下と有意に関連しているエビデンスが示されたことに意義があります。

1957年、岡山大学の小林純教授が世界で初めて「水の酸性と脳卒中死亡率との相関について」を報告しました。日本各地600以上の河川の酸度・アルカリ度と地域住民の脳卒中の死亡率を調査し、酸性の水(軟水)のある地域では脳卒中での死亡率が高く、アルカリ性の水(硬水)の地域では死亡率が低く、水の硬度が脳卒中の死亡率と逆相関すると報告しました。この報告は大きな反響を呼び欧米で追試が行われました。
Kobayashi J. On geographical relationship between the chemical nature of river water and death-rate from apoplexy. Berichte des ohara institutes fur landwirtschaftliche biologie 11:12-21, 1957

1960年、米国のシュレーダーは、飲料水の硬度(カルシウム、特にマグネシウムが多い水)と虚血性心疾患の関係を調査し、マグネシウムの多い硬水地域では、心筋梗塞や狭心症による死亡率が低いとの論文を発表しました。Schroeder HA, JAMA. 172:1902-1908, 1960

1973年、フィンランドのルオーマらの疫学調査では、飲料水のマグネシウム濃度が高くなるほど、循環器疾患の有病率が低下し、濃度が2倍では有病率が3分の1まで低下するとの論文を発表しました。Luoma H, et al. Scand J Clin Lab Invest. 32(3):217-224, 1973

1978年、フィンランドのKarppanenは虚血性心疾患(狭心症・急性心筋梗塞)と食事中のCa/Mg比の関係を調査し、食事摂取比率が高いほど、虚血性心疾患の死亡率が高いことを報告しました。当時報告されたCa/Mg摂取比率は、一番低い順番からおよそ日本1.2、ユーゴスラビア2.0、イタリア2.2、ギリシャ2.5、オランダ3.2、アメリカ3.2、フィンランド4.0と発表しました。
Karppanen H, et al. Adv Cardiol. 25:9-24. Review, 1978

マグネシウムはカルシウムの蔭に隠れて来た長い歴史があります。わが国の国民一人当たりのカルシウム摂取量は、厚生省(当時)が国民栄養の現状として戦後1946年来毎年調査報告し、厚生労働省が国民健康・栄養調査として2003年来毎年調査報告しています。一方マグネシウム摂取量は、カルシウムの調査報告より55年後の2001年から厚生省が調査報告を開始しました。カルシウムと比較し、マグネシウムはそれほど研究されていない“オーファン栄養素(Orphan nutrient)”です。この為、マグネシウムに関する国の認知が相当遅れたため国民の認知が更に遅れています。

マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。

マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。

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