エストロゲンと片頭痛と鬱

公開日:2021-04-20

MAG21研究会のメンバーで東京慈恵会医科大学客員教授・慈誠会病院産婦人科部長 恩田威一先生の論文『エストロゲンと片頭痛と鬱』が、相模原市医師会報2021年2月号の会員寄稿に掲載されたのでお知らせします。

エストロゲンと片頭痛と鬱

慈誠会病院 恩田威一


 正常月経周期の方や悪阻(ツワリ)の時期には血液中に増えるエストロゲンが、脳のセロトニンを増やし、増えたセロトニンが嗅球を刺激し、臭いを敏感にする事をお話ししました。悪阻で食べ辛い人が鼻が詰まると食べやすくなったり、クエン酸を含むレモンや梅干し等酸を一緒に食べると食物のアンモニアを中和して食べやすくなる事から、舌と鼻で食物を味わう事が分かります。悪阻時に酸っぱい食べ物が好まれる理由です。悪阻の妊婦さんにはクエン酸を染みこませ乾燥させて作成したお茶パック1枚をマスクと鼻の間に挟むと、悪阻が軽くなったと喜ばれます。

 処で、月経時の症状に片頭痛と(うつ)があります。排卵期にも片頭痛を訴える人がいます。この場合片頭痛は血管拡張で起こります。月経周期では排卵前と黄体期にエストロゲンが増加し、此により増加したセロトニンが血管壁にカルシウムを取り込ませ血管を収縮させます。セロトニン減少時に血管が拡張し片頭痛の原因となります。月経前緊張症の片頭痛の改善策として黄体期プロゲステロン補充があります。エストロゲンのセロトニン増加を調節している可能性があります。全く別の治療法として、月経後から月経前までの酸化マグネシウム投与が50%有効との報告があります。マグネシウムとカルシウムの生理的作用は基本的に拮抗します。マグネシウム投与によりカルシウムの血管収縮が抑制され血管拡張による片頭痛が起きづらくなります。悪阻が辛かった人が妊娠12週頃軽快するときに1週間位の間に片頭痛を感じる人がいます。カロナールⓇを投薬する事が多いと思われます。悪阻の時にマグネシウムが不足して血管が収縮していること、エストロゲンの低下と脳内セロトニンの減少が関与して片頭痛が発生すると考えられます。片頭痛には患部をガーゼで包んだ保冷剤で冷やす事により鎮痛剤の服用を減らす事が出来ます。一人で悩まずに「治す」「防ぐ」頭痛体操のすすめ!坂井文彦監修も提言します。悪阻時、血清イオン化カルシウム増加と血清マグネシウム減少により腸蠕動低下し胃液分泌増加した場合にマグネシウム補充により軽減が望めます。血清イオン化カルシウムは外国の報告では妊娠中は妊娠前と比べて変動しないと言われていますが、福岡秀興の報告では妊娠初期に増加が認められます。

 ヤーズフレックスⓇはLEP(Low dose estrogen progestin)の1つで、1錠中エストロゲンが20μgと低用量の為、内膜プロスタグランディン産生低減、月経痛軽減し、子宮内膜症に伴う疼痛の改善、月経困難症の治療薬に用いられます。出血がなければ最長120日迄の連続服用可能な薬です。月経時に鬱を繰り返す人がいます。正常月経周期中エストロゲンは脳のセロトニン増加させます。月経時エストロゲンとセロトニン減少し、鬱に関与。本薬長期継続内服によりセロトニン変動による周期的鬱を減らすことが可能になります。精神科専門医受診前に一度試してみるのも良いかも知れません。(相模原市医師会より掲載許諾を得ています)

参考資料:
恩田威一: エストロゲンと片頭痛と鬱.相模原市医師会報 58:85-86, 2021

【コメント】 恩田威一先生が『エストロゲンと片頭痛と鬱』について解説されているので紹介いたしました。マグネシウムと女性における悪阻、片頭痛、鬱の関係が解説されています。

マグネシウムはカルシウムの陰に隠れて来た永い歴史があります。わが国の国民一人当たりのカルシウム摂取量は、厚生省(当時)が国民栄養の現状として戦後1946年来毎年調査報告し、厚生労働省が国民健康・栄養調査として2003年来毎年調査報告しています。一方マグネシウム摂取量は、カルシウムの調査報告より55年後の2001年から厚生省が調査報告を開始しました。カルシウムと比較し、マグネシウムはそれほど研究されていない“オーファン栄養素(Orphan nutrient)”です。この為、マグネシウムに関する国の認知が相当遅れたため国民の認知が更に遅れています。

マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、永年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。

マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。

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