糖尿病性腎臓病の進行および寛解/退行に関連する因子の後向き研究-低マグネシウム血症は進行に関連し、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の上昇は寛解または退行に関連-

公開日:2021-01-19

2021年、公益財団法人東京都医療保健協会練馬総合病院の柳川達生院長らが糖尿病性腎臓病の進行および寛解/退行に関連する因子の後向き研究-低マグネシウム血症は進行に関与し、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の上昇は寛解または退行に関与-” と題した研究報告をされたので、その論文概要を紹介します。

目的
この研究は、糖尿病性腎臓病[diabetic kidney disease (DKD)]の進行および寛解/退行に関連するマグネシウム(Mg)の血清レベルを含むいくつかの一般的な臨床的要因を後向きに調査することを目的としました。

方法
対象は、ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬以外の経口糖尿病薬による治療を受けていた2型糖尿病の日本人患者690人です。定期的な臨床データを、観察期間の初日と最終日に収集しました。DKDの予後は、腎臓病改善グローバル転帰(KDIGO)分類に従って4段階に分類しました。DKD進行の定義は、観察期間開始時の下位3つのリスクカテゴリー(LR、MIR、HR)のいずれかから観察期間終了時にVHR(Very High Risk)ステージ/カテゴリーへ移行した場合としました。寛解/退行の定義は、観察期間の開始から終了までの少なくとも1段階のリスクカテゴリーの改善としました。

コックス比例ハザード分析により、DKD進行および寛解/退行に関連する要因を調査しました。
さらに、推定糸球体濾過量(eGFR)5 ml/min/1.73 m2以上の年間減少に関連する要因をロジスティック回帰分析によって調べました。コックス比例ハザード分析により、尿中タンパク質の陰性から微量または陽性への移行、または陰性または微量から陽性への移行に関与する要因を調査しました。

結果
観察期間は2251±1614日でした。 年齢(オッズ比 = 1.10、95% CI(信頼区間); 1.06–1.14; P <0.01; 1歳上昇ごと)、血清Mg(オッズ比 = 0.82、95% CI; 0.71–0.95; P <0.01); 0.1 mg/dl)、および血清HbA1c(オッズ比 = 1.03、95% CI; 1.01–1.05; P <0.01:0.1%)はDKDの進行と関連していました。 一方、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は、DKDの寛解/退行の可能性と関連がみられました(オッズ比 = 1.01、95% CI; 1.002–1.018; P <0.05; 1 IU/L)。
eGFRの低下は、HbA1cレベルの上昇、低マグネシウム血症、およびALTの低下と関連していました。
微量または顕性タンパク尿の新たな出現は、HbA1c高値、加齢、低マグネシウム血症および高トリグリセリド血症と相関がみられました。

結論
調査の結果、加齢と血清HbA1cレベルがDKDの進行リスクの増加と関連しているという以前の報告が確認されました。
血清Mg濃度が低いとDKDの進行リスクが高くなることが判明しましたが、因果関係を確認するには介入研究が必要です。HbA1c値の上昇と低マグネシウム血症は、eGFRの低下と微量または顕性タンパク尿出現に共通した要因でした。血清ALT値の低下は、eGFRの低下と関連していました。
血清ALTは腎機能増悪とともに低下することが知られており、血清ALTは腎機能を反映するマーカーと考えます。

参考資料:
Yanagawa T, Koyano K, Azuma K. Retrospective study of factors associated with progression and remission/regression of diabetic kidney disease-hypomagnesemia was associated with progression and elevated serum alanine aminotransferase levels were associated with remission or regression-. Diabetol Int (2021).
https://doi.org/10.1007/s13340-020-00483-1

【コメント】
この研究は、血清マグネシウム濃度が低いと糖尿病性腎臓病[diabetic kidney disease (DKD)]の進行リスクが高くなり、HbA1c値の上昇と低マグネシウム血症は推定糸球体濾過量(eGFR)の低下と微量または顕性タンパク尿出現に共通した要因であると報告したことに意義があります。

糖尿病、糖尿病性腎臓病の患者では血清マグネシウムが低下しやすく注意が必要です。血清マグネシウムが低くならないためには、日頃から十分なマグネシウム摂取が重要となります。

マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現状です。

マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。

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