公開日:2019-08-07
2016年、メキシコInstituto Nacional de Cardiología Ignacio Chávez、Instituto de Medicina Genómicaの研究者らは、“アテローム性動脈硬化症の遺伝学(GEA)研究において血清マグネシウムは冠状動脈石灰化と逆の関連” と題した研究報告をしたので、その論文概要を紹介します。
背景
血清マグネシウムは慢性腎臓病患者の冠状動脈石灰化(CAC)と逆相関しますが一般的な健常人口におけるこの関連についての情報はほとんどありません。
目的
研究の目的は、血清マグネシウム値と冠状動脈石灰化(CAC)との横断的関連性を調査することです。
方法
対象は、アテローム性動脈硬化症の遺伝学(GEA)研究の参加者を対象に症候性心血管疾患のない30~75歳のメキシコ人混血1276人(女性50%)です。冠状動脈石灰化(CAC)は、多検出器コンピューター断層撮影法によって定量化しました。
血清マグネシウムと心血管疾患因子および冠状動脈石灰化(CAC)スコア >0として定義される無症候性アテローム性動脈硬化症との横断的関連性を年齢、性別、教育、喫煙状況、体格指数(BMI)、収縮期血圧、身体活動、腹部内臓組織、空腹時インスリンおよび血糖、アルコール摂取、更年期障害(女性のみ)、低密度(LDL-C)および高密度リポタンパク(HDL-C)、トリグリセリド、利尿薬使用、2型糖尿病、 2型糖尿病家族歴で調整したロジスティック回帰モデルを用いました。
結果
血清マグネシウム値を四分位Q1 <1.97 mg/dl、Q2 ≥1.97 to <2.07 mg/dl、Q3 ≥2.07 to <2.18 mg/dl、Q4 ≥2.18 mg/dlに振り分けました。
完全に調整した後、最も低い血清マグネシウム値を有するQ1と比較して血清マグネシウム値の最高四分位数Q4の被験者は、高血圧のオッズが48%低下(p = 0.028)、2型糖尿病のオッズが69%低下(p = 0.003)、冠状動脈石灰化(CAC)スコア >0のオッズが42%低下(p = 0.016)しました。
血清マグネシウム値0.17 mg/dL(1SD、標準偏差)の増加は、冠状動脈石灰化(CAC)が16%低く(OR 0.84、95%CI 0.724-0.986)独立して関連していることも分析で示されています。
結論
メキシコ人混血被験者のサンプルでは、低血清マグネシウムは独立して高血圧と2型糖尿病の高い有病率だけでなく冠動脈石灰化とも関連し、アテローム性動脈硬化症および心血管系の罹患率と死亡率の予測マーカーとなります。
参考資料:
Posadas-Sánchez R, Posadas-Romero C, Cardoso-Saldaña G, Vargas-Alarcón G, Villarreal-Molina MT, Pérez-Hernández N, Rodríguez-Pérez JM, Medina-Urrutia A, Jorge-Galarza E, Juárez-Rojas JG, Torres-Tamayo M. Serum magnesium is inversely associated with coronary artery calcification in the Genetics of Atherosclerotic Disease (GEA) study. Nutrition J 15:22, 2016. doi: 10.1186/s12937-016-0143-3.
https://nutritionj.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12937-016-0143-3
【コメント】
メキシコのアテローム性動脈硬化症の遺伝学(GEA)研究で低血清マグネシウム値と比較して高血清マグネシウム値の被験者は高血圧のオッズが48%低下、2型糖尿病のオッズが69%低下、冠状動脈石灰化のオッズが42%低下し、更に血清マグネシウム値0.17 mg/dL(1SD、標準偏差)の増加は冠状動脈石灰化が16%低く独立して関連し、「低血清マグネシウムは独立して高血圧と2型糖尿病だけでなく冠動脈石灰化とも関連し、アテローム性動脈硬化症および心血管系の罹患率と死亡率の予測マーカーとなる可能性があると報告したことに意義があります。
日本では糖尿病患者とその予備軍がおよそ2000万人と推定されているので、相当数が低マグネシウム血症の可能性が有ります。また、糖尿病以外でも血中マグネシウム値が低い男性と女性が存在しますが、2つの問題点が有ります。まず、一般的にマグネシウムの重要性について認知が低い為、臨床現場に於いて患者さんの血中マグネシウムを測定する医師が少ないことです。次に、わが国で臨床検査に使用しているマグネシウムの基準値がメタボ予備軍を含む従来のままで、完全健常者による基準値の再策定がされて無い為に、下限値(日本の正常血清マグネシウム値 1.8~2.6 mg/dLですが、1.8~2.0当り)があまく設定されており、低マグネシウム血症の患者さんが見逃されていると思われます(横田邦信,白石正孝,恩田威一ほか:健常者における血清総マグネシウム(Mg)基準値の妥当性に関する検討.JJSMgR 26:100-101, 2007.)。この問題は、早く解決し、現代に沿った正しいマグネシウム基準値が臨床で使用されることが望まれます。
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マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、便秘、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻(つわり)、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連していることが基礎的・疫学的・臨床的研究でも明らかにされています。今後マグネシウム摂取の重要性がさらに認知され、正しい食育が行われる事が切に望まれます。
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。