公開日:2018-06-07
2017年、練馬総合病院の研究者が、“SGLT2阻害剤による低マグネシウム血症の好ましい是正が腎保護効果と関連するか?” と題した論評を報告したので、その論文概要を紹介します。
抄録
マグネシウム(Mg)不足は、糖尿病および心血管(CV)事象に関連しています。ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害剤による治療は、2型糖尿病患者のCV事象を抑制させることが報告されています。我々は、最近、SGLT2阻害剤治療による血清マグネシウム値の上昇(低Mg血症の是正)が、CV事象の減少の少なくとも一部を説明し得ると提案しました。最近、SGLT2阻害剤も腎保護作用を発揮することが報告されており、そのメカニズムに関して様々な仮説が提唱されています。ここでさらに一つ可能なメカニズム、すなわちマグネシウムの役割を提案したいと思います。
低マグネシウム血症により腎機能障害が進行しやすいことは報告されていますが、そのメカニズムは明らかとはいえません。いくつかのメカニズムが提唱されています。低マグネシウム血症は腎血管石灰化を促進させます。さらに、血小板凝集を増加させ、血栓形成効果をきたします。また内皮機能に影響を及ぼします。低マグネシウム血症は慢性炎症を誘発することでアテローム性動脈硬化症と関連します。多くの2型糖尿病患者さんは低マグネシウム血症をきたしています。そこで、SGLT2阻害剤による低マグネシウム血症の是正が上記の機序等により腎障害を軽減する可能性があるのではないかと提案します。
(当英語論文の抄録を忠実に日本語に和訳したわけではないので、著者の柳川達生先生により若干修正して頂きました)
参考資料:
Yanagawa T. Is the Renoprotective Effect of SGLT2 Inhibitors due to their Beneficial Effect on Hypomagnesemia? J Diabetes Metab 8:11, 2017 DOI: 10.4172/2155-6156.1000772
https://www.omicsonline.org/open-access/is-the-renoprotective-effect-of-sglt2-inhibitors-due-to-their-beneficialeffect-on-hypomagnesemia-2155-6156-1000772.pdf
【コメント】
この研究は、糖尿病の新しい治療薬「SGLT2阻害剤」が血清マグネシウム濃度を上昇させることによって低マグネシウム血症による腎障害を軽減する可能性を示唆していることに意義があります。
糖尿病、糖尿病腎症の患者では血清マグネシウムが低下しやすく注意が必要です。血清マグネシウムが低くならないためには、日頃から十分なマグネシウム摂取が重要となります。
マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現状です。
マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、歯周病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連しています。
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