公開日:2018-03-22
2018年、日本透析医学会統計調査委員会委員で大阪大学大学院腎疾患統合医療学の研究者らが、“血液透析患者のマグネシウムと股関節骨折リスク” と題した研究報告をしたので、その論文概要を紹介します。
背景と目的
マグネシウムは骨代謝に必須のミネラルです。 しかしながら、マグネシウムと骨折リスクとの関係についてはほとんど知られていません。このコホート研究では、血液透析患者の血清マグネシウム値と股関節骨折(大腿骨近位部骨折)リスクとの関連を検討しました。
方法
日本透析医学会の2009~2011年の全国データベースから、股関節骨折の既往がない113,683人の血液透析患者を特定しました。
結果
研究対象者は平均64.9歳、女性は37.5%でした。追跡期間2年間に、計2305(2%)例に新規股関節骨折が認められました。発症率は、血清マグネシウム値の低い四分位群の患者で有意に高値でした(Q1-Q4のそれぞれ2.63%、2.08%、1.76%および1.49%; P <0.001)。ベースラインの各四分位における血清マグネシウム値(mg/dL)の範囲はQ1 <2.3、Q2 2.4-2.6、Q3 2.7-2.8、Q4 > 2.9でした。
患者背景および臨床的要因の調整後、Q1の患者はQ4の患者よりも股関節骨折リスクが1.23倍高く(95% CI, 1.06-1.44; P<0.01)、同様に、別の分析では低マグネシウム四分位群の患者の股関節骨折リスクが増加しました。サブグループ分析では有意な効果の変更は観察されませんでした。血清マグネシウム値が1 mg/dL上昇するごとに股関節骨折リスクは14.3%低下し(95% CI, 3.8-23.8; P<0.01)、4.0 mg/dLまで血清マグネシウム濃度の上昇に比例して骨折リスクが低下しました。新規股関節骨折に対する血清マグネシウム濃度の人口寄与割合は、血清マグネシウム低値群(Q1~Q3)の調整後13.7%(95% CI、3.7%-22.7%)で、血清カルシウム、血清リン酸、副甲状腺ホルモンレベルよりもはるかに高値でした。
結論
軽度の高マグネシウム血症は、血液透析患者の股関節骨折リスクが低いことと関連しています。
参考資料:
Sakaguchi Y, Hamano T, Wada A, Hoshino J, Masakane I. Magnesium and Risk of Hip Fracture among Patients Undergoing Hemodialysis. J Am Soc Nephrol. 29:991-999, 2018
doi: 10.1681/ASN.2017080849. Epub 2017 Nov 30.
http://jasn.asnjournals.org/content/early/2017/11/29/ASN.2017080849.abstract
【コメント】
この研究は、日本人の血液透析患者におけるコホート研究です。透析患者における股関節骨折の発症率は、血清マグネシウム値の低い患者が高い患者よりも有意に高く、また股関節骨折リスクが1.23倍高いことが判明しました。血清マグネシウム値が1 mg/dL上昇するごとに股関節骨折リスクは14.3%低下し、4.0 mg/dLまで血清マグネシウム濃度の上昇に比例して骨折リスクが低下し、軽度の高マグネシウム血症は血液透析患者の股関節骨折のリスクが低いことと関連しているエビデンスが示されたことに意義があります。
糖尿病、糖尿病腎症の患者では血清マグネシウム値が低下しやすく注意が必要です。血清マグネシウム値が低くならないためには、日頃から十分なマグネシウム摂取が重要となります。
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マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。
マグネシウムの摂取不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患、悪阻、そして長期記憶、アルツハイマー病など様々な疾病・病態とも密接に関連しています。
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