公開日:2017-10-17
2017年、米国タフツ大学Jean Mayer USDA Human Nutrition Research Center on Aging、米国ハーバード大学公衆衛生学部、Brigham and Women’s Hospital・ハーバード医科大学の研究者らが、“マグネシウム摂取量、炭水化物の質、2型糖尿病発症リスク:3つの米国コホート研究からの結果” を報告したので、その論文概要を紹介します。
背景と目的
食事からのマグネシウム摂取量は、多くの観察研究で2型糖尿病発症リスクと逆相関しますが、食事の炭水化物の質に関する関連性はほとんど評価されていません。
そこで、マグネシウム摂取量が多いほど、特に低穀物繊維や高グリセミック指数(GI, glycemic index)やグリセミック負荷(GL, glycemic load)を特徴とする低炭水化物食との関連で、2型糖尿病発症リスクが低いという仮説を立てました。
研究デザイン/方法
分析は3つのコホート研究で検討しました。対象は、看護師健康調査(Nurses’ Health Study1, NHS; 1984–2012年, n = 69176人)、看護師健康調査II(Nurses' Health Study II2, NHS II; 1991–2013年, n = 91471人)、医療従事者フォローアップ研究(Health Professionals’ Follow-Up Study3, 1986–2012年, n = 42096人)で、食事摂取量は4年毎に食物摂取頻度調査で評価しました。
2型糖尿病は、2年毎および補足的なアンケート調査によって確認しました。
年齢、BMI(体格指数)、糖尿病家族歴、身体活動、喫煙、高血圧、高コレステロール血症、GL、エネルギー摂取量、アルコール、穀物繊維、多価不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、加工肉を調整したマグネシウム摂取量および糖尿病発症率の多変量ハザード比(HR)を算出し、糖尿病発症リスクに対するマグネシウムと炭水化物質の共通関連を検討しました。
注釈:
1 Nurses’ Health Study (NHS)は、米国Brigham and Women’s Hospital、米国ハーバード医科大学、米国ハーバード大学公衆衛生学部がアメリカ国立衛生研究所(NIH, National Institutes of Health)からの研究助成金により1976年に開始されたアメリカの看護師健康調査で、登録時既婚女性看護師30~55歳121700人が11州(California, Connecticut, Florida, Maryland, Massachusetts, Michigan, New Jersey, New York, Ohio, Pennsylvania, and Texas)から参加。
http://www.nurseshealthstudy.org/
2 Nurses' Health Study II (NHS II)は、1989年にNHSよりも若年層の看護師健康調査で、登録時女性看護師25~42歳116430人が14州(California, Connecticut, Indiana, Iowa, Kentucky, Massachusetts, Michigan, Missouri, New York, North Carolina, Ohio, Pennsylvania, South Carolina, and Texas)から参加。
http://www.nurseshealthstudy.org/
3 Health Professionals’ Follow-Up Study (HPFS)は、米国ハーバード大学公衆衛生学部が米国国立がん研究所(NCI, National Cancer Institute)からの研究助成金により1986年に開始されたアメリカの男性医療従事者フォローアップ研究で、51529人が参加。
https://content.sph.harvard.edu/hpfs/
結果
追跡調査28年間に2型糖尿病の発症が17130例認められました。
3つのコホート研究間の分析では、マグネシウム摂取量が最高群と最低摂取群と比較し、2型糖尿病発症リスクが15%低い結果となりました[5等分(五分位に振り分け)の第5五分位(最高摂取群)対第1五分位(最低摂取群の基準を1として)の多変量ハザード比HR:0.85 [95%CI 0.80-0.91] 、P <0.0001]。
マグネシウム摂取量の増加は、低GIまたは高穀物繊維の参加者が高GIまたは低穀物繊維の参加者よりも2型糖尿病発症リスクが低いことと強く関連していました(両者P <0.001)。
結論
食事からのマグネシウム摂取量が多いことが、特に低炭水化物食との関係で、2型糖尿病発症リスクの低下と関連しています。
参考資料:
Hruby A, Guasch-Ferré M, Bhupathiraju SN, Manson JE, Willett WC, McKeown NM, Hu FB. Magnesium Intake, Quality of Carbohydrates, and Risk of Type 2 Diabetes: Results From Three U.S. Cohorts. Diabetes Care. 2017 Oct 4. pii: dc171143. doi: 10.2337/dc17-1143. [Epub ahead of print]
http://care.diabetesjournals.org/content/early/2017/09/29/dc17-1143.long
【コメント】
この研究は、アメリカで最も長期的で大規模な観察型研究として知られています。3つのコホート研究からの結果として28年間の追跡調査で、マグネシウム摂取量が最高群と最低摂取群と比較し、2型糖尿病発症リスクが15%低い結果が確認されました。食事からのマグネシウム摂取量が多いほど、特に低炭水化物(低GIまたは高穀物繊維)の食事との関係で、2型糖尿病発症リスクの低下と関連しているエビデンスが示されたことに意義があります。
わが国では、マグネシウムはカルシウムの蔭に隠れて来た長い歴史があります。わが国の国民一人当たりのカルシウム摂取量は、厚生省(当時)が国民栄養の現状として戦後1946年来毎年調査報告し、厚生労働省が国民健康・栄養調査として2003年来毎年調査報告しています。一方マグネシウム摂取量は、カルシウムの調査報告より55年後の2001年から厚生省が調査報告を開始しました。カルシウムと比較し、マグネシウムはそれほど研究されていない“オーファン栄養素(Orphan nutrient)”です。この為、マグネシウムに関する国の認知が相当遅れたため国民の認知が更に遅れています。
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マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。
マグネシウム不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患そして悪阻など様々な疾病・病態とも密接に関連しています。
マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております。