プロトンポンプ阻害薬の使用と血液透析患者の血清マグネシウム濃度: 横断的研究

公開日:2017-07-30

2015年、東京慈恵会医科大学の研究者らが、“プロトンポンプ阻害薬(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎に高頻度に用いられる薬剤)の使用と血液透析患者の血清マグネシウム濃度: 横断的研究”について報告をしたので、その論文概要を紹介します。


背景


血清マグネシウム濃度は、血液透析患者における死亡率の予測因子です。最近の報告では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が血清マグネシウム濃度に影響することが示されていますが、血液透析患者におけるPPIの使用とマグネシウム濃度との関係はほとんど研究されていません。


目的


血液透析患者におけるPPIの使用と血清マグネシウム濃度との関係を明らかにすることが目的です。


方法


安定した状態の血液透析患者1189人(2012年5月~2013年6月に15の透析施設から)を含めて横断的研究をデザインしました。PPIとマグネシウム関連因子、および他の可能性のある交絡因子との関連について重回帰モデルを用いて評価しました。低マグネシウム血症を2.0 mg/dL未満の値と定義し、PPIの使用と低マグネシウム血症との関連性を評価するためにロジスティック回帰モデルを用いました。


結果


PPIの使用は、ヒスタミン2(H2)受容体拮抗剤または酸抑制薬物未使用よりも有意に低い平均血清マグネシウム濃度と関係していました(平均[SD] PPI: 2.52 [0.45] mg/dL; ヒスタミン2(H2)受容体拮抗剤: 2.68 [0.41] mg/dL; 酸抑制薬物未使用: 2.68 [0.46] mg/dL; P = 0.001)。低マグネシウム血症はPPIと有意に関係していました(調整オッズ比、OR:2.05; 95%CI:1.14-3.69; P = 0.017)。


結論


PPIの使用は、血液透析患者における低マグネシウム血症のリスク増加と関係しています。血液透析におけるPPI服用者のマグネシウム代替を探るための前向き研究が必要です。


参考資料:


Nakashima A, Ohkido I, Yokoyama K, Mafune A, Urashima M, Yokoo T. Proton Pump Inhibitor Use and Magnesium Concentrations in Hemodialysis Patients: A Cross-Sectional Study. PLoS ONE 10(11): e0143656, 2015


https://doi.org/10.1371/journal.pone.0143656


コメント


この研究は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が血液透析患者における低マグネシウム血症のリスク増加と関係しているというエビデンスを示されたことに意義があります。


日本では糖尿病患者とその予備軍がおよそ2050万人と推定されているので、相当数が低マグネシウム血症の可能性が有ります。また、糖尿病以外でも血中マグネシウム値が低い患者さんが存在しますが、2つの問題点が有ります。まず、一般的にマグネシウムの重要性について認知が低い為、臨床現場に於いて患者さんの血中マグネシウムを測定する医師が少ないことです。次に、わが国で臨床検査に現在使用しているマグネシウムの基準値が境界型糖尿病やメタボ予備軍を含む従来のままで、完全健常者による基準値の再策定がされて無い為、下限値(日本の正常血清マグネシウム値 1.8~2.6 mg/dLですが、1.8~2.0下限)があまく設定されており、低マグネシウム血症の患者さんが見逃されていると思われます(横田邦信、2007年11月9日 第27回日本マグネシウム学会総会で発表)。この問題を、早く解決し、現代に沿った正しいマグネシウム基準値の下で臨床に使用されることが望まれます。 


当ホームページでは、以下のサイトでプロトンポンプ阻害薬(PPI)についても解説してきました。


2011.03.09 米国FDA注意喚起 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期服用で低Mg血症の可能性


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