公開日:2011-04-19
プロトンポンプ阻害薬(PPI)と低Mg血症 -第2弾-
2011年3月2日、米国食品医薬品局(FDA)は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの適応を持つ処方薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)を1年以上長期に服用した場合、低マグネシウム(Mg)血症を来す可能性があると公表し、注意喚起した内容を当ホームページで掲載しました。
FDAが精査したのは、PPIの長期服用で低Mg血症が報告された同局の有害事象報告システム(AERS)の38例、医学文献で報告された23例(AERS確認の8例を含む)です。このうち、2006年にオーストラリア ニューカッスル John Hunter Hospitalの研究者らが、PPIと低マグネシウム(Mg)血症の2症例について報告した概要を中心に以下ハイライト致します。
なお、薬剤名に関し、FDAが現在承認している処方PPIは以下の7種類です。
1. Esomeprazole
2. Dexlansoprazole
3. Omeprazole and sodium bicarbonate
4. Pantoprazole sodium
5. オメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)
6. ランソプラゾール(タケプロン)
7. ラベプラゾールナトリウム(パリエット)
注: カタカナは日本で承認されている薬剤で( )内は商品名です。
● 症例1: 51歳女性
臨床経過: 図を参考にしてください。
オメプラゾール(Omeprazole)を1年以上服用 (20 mg、1日2回)し、手足等の痙攣(テタニー)を認めました。まず、カルシウム投与(2.4g/日)を開始しましたが、7ヵ月後に中止しました。次に2ヶ月後、マグネシウム投与(120~480mg/日)を開始し、14ヵ月後にオメプラゾールは中止し、ラニチジン(Ranitidine)服用を開始しました。血清・尿中マグネシウム値が上昇し正常値になりました。
この間、他のPPI Esomeprazoleの服用開始後2週間で血清・尿中マグネシウム値が減少した為中止しました。ラニチジン服用中(1日最高900mg)血清・尿中マグネシウム値が正常になったので、マグネシウムサプリメントは中止しました。
胃・大腸内視鏡検査、生検後、バレット食道炎(逆流性食道炎に付随)を認めましたが、他に異常はありませんでした。
図の説明: PPI治療中患者の血清カルシウム(-◆-)、血清マグネシウム(-■-)、尿中マグネシウム(-▲-)の変化。 縦線左は血清カルシウム・マグネシウム(mmol/L)、縦線右は尿中マグネシウム(mmol/日)、横線は治療期間(月)です。グラフ下の棒線グラフはマグネシウムサプリメント量(mg/日)です。
測定値正常範囲: 血清カルシウム 2.20~2.55mmol/L、血清マグネシウム 0.70~1.00mmol/L、尿中マグネシウム2.00~8.00mmol/日。
コメント: 米国の正常血清マグネシウム値 0.74~0.95 mmol/L (1.8~2.3 mg/dl)
● 症例2: 80歳男性
臨床経過: 図を参考にしてください。
オメプラゾール(Omeprazole)を何年も服用 (20 mg/日)し、手足等の痙攣(テタニー)を認めました。まず、カルシウム(600mg/日)投与、マグネシウム(240~360mg/日)サプリメント10ヵ月間多量投与後、オメプラゾール服用を中止しました。血清・尿中マグネシウム値が上昇し正常値になったので、ラニチジン服用を開始しました。
血清・尿中マグネシウム値が正常になったので、マグネシウムとカルシウムサプリメントを中止しました。
図の説明: PPI治療中患者の血清カルシウム(-◆-)、血清マグネシウム(-■-)、尿中マグネシウム(-▲-)の変化。 縦線左は血清カルシウム・マグネシウム(mmol/L)、縦線右は尿中マグネシウム(mmol/日)、横線は治療期間(月)です。グラフ下の棒線グラフはマグネシウムサプリメント量(mg/日)です。
測定値正常範囲: 血清カルシウム 2.20~2.55mmol/L、血清マグネシウム 0.70~1.00mmol/L、尿中マグネシウム2.00~8.00mmol/日。
コメント: 米国の正常血清マグネシウム値 0.74~0.95 mmol/L (1.8~2.3 mg/dl)
研究者等の考察では、“特発性”副甲状腺機能低下症と診断された患者では薬歴が問われるべきです。また、「PPI服用患者で、特に心疾患を伴う患者では血清マグネシウム値を測定するべきである。」と述べています。
参考資料:
Epstein M, McGrath S, Law F. Proton-pump inhibitors and hypomagnesemic hypoparathyroidism. NEJM 355:1834-1836, 2006
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMc066308
わが国でもプロトンポンプ阻害薬(PPI)が広くかつ多数の患者さんに使用されていますので、適切な情報伝達、情報共有が必要と考えられます。
以下に、MAG21研究会で取り上げた関連の記事を示します。ご参考にして下さい。
2011.03.09 米国FDA注意喚起 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期服用で低Mg血症の可能性
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